「愚将は兵隊を語り、賢将は兵站を語る」の格言そのもの

 巨大津波や原発事故にも見舞われた「3.11」は、被害の規模やエリアが桁外れだった。一方、地元・東北や近隣の北海道や関東には、陸自の主力部隊が数多く配置されていることもあって、地震発生直後に「自衛隊10万人」を即時に行うことも物理的に可能だった。その意味でこの大震災はあらゆる点が別格と言っていい。

 能登半島地震と規模が近い「熊本地震」(マグニチュード7.3)は、5日目に2万4000人の自衛隊が動員された。この数字と比較すると、「7日目に6000人超」の「能登半島」は一見少なく感じる。だが前者の場合、被災地が平野部で隣接県との陸路のアクセスもよく、震源地に近い熊本市には第8師団の司令部と主力部隊が駐屯しており、2万人以上の動員は難しくなかったようだ。

 また、この大部隊が展開・宿営するスペースや、これを支える補給体制もすぐさま確保できたようである。

 かたや「能登半島」の場合、前述のように「半島」という特異な地形で、外部とアクセスする陸路は限られるため、いきなりの「1万人投入」は、衣食住を維持する補給路の確保を考えても物理的に無理だろう。

沖で待機する輸送艦「おおすみ」から発進し、砂浜で”上陸作戦”を展開中のホバークラフト型揚陸艇。陸自のブルドーザーが上陸した軍用トラックを引っ張っている(写真:海上自衛隊Webサイトより)

 ただでさえ大渋滞する道路に、深緑色の自衛隊トラックが大挙して押し寄せれば、大混乱に陥ることも必至だ。大部隊がやっとの思いで現地に到着しても、平地が少なく、宿営スペースの確保も至難の業だろう。大きな余震も考え、崖や海の近くの設営はNGとせざるを得ないからだ。

 さらに大部隊の活動を維持するために不可欠な、食糧・燃料などの補給ルート(兵站線)の構築・確保も最重要である。

 これらを考えれば、1000人からスタートし、後方支援を強化しつつ、徐々に2000人、5000人、6000人と逐次投入するほうが、実に無理のない理にかなった“作戦”と言える。

 補給体制や被災地の実情も熟慮せず、単純に「1万人送れ」と喧伝するのは机上の空論で、政治的パフォーマンスとのそしりも免れない。まさに「愚将は兵隊を語り、賢将は兵站を語る」の格言そのものである。

「残念なのは、むしろ政府や防衛省の情報発信の仕方かもしれない。現に防衛省は2日午前中に1万人態勢を決定しており、これを真っ先にアピールし、『まずは1000人、次に2000人と徐々に増強』と分かりやすく説明すればよかったのでは。そうすれば、遅いという批判を避けられたかもしれない」(前述の軍事評論家)