能登半島地震では多くの家屋が倒壊するなど、住民の生活基盤が失われた(写真:共同通信社)能登半島地震では多くの家屋が倒壊するなど、住民の生活基盤が失われた(写真:共同通信社)

元日に発生した能登半島地震ではなお懸命の復旧作業が続いている。17日には阪神・淡路大震災から29年を迎えた。首都直下地震、南海トラフ巨大地震などのリスクを抱える日本では、被災者支援・復興対応に必要な財政支出の備えは欠かせない。中世後期から戦費調達のため拡大してきた王家や都市国家などの債務は、現代の国家ではインフラや福祉制度の整備によって膨らんでいる。再び震災が発生しても金融市場を混乱させずに迅速な支援ができるか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が、日本に問われる論点を整理する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

緊急事態時、政府の本質的な対応はやはり財政支出

 元日の夕方、関東地方でも大きな揺れを感じた。令和6年能登半島地震。その翌日の羽田空港での航空機事故。新年の混み合う空港で被災地に向かおうとしていた海上保安庁の飛行機が絡んだ事故だけに、一層、気持ちは複雑だ。同じ言葉が何度も繰り返されるが、亡くなった方々のご冥福を祈り、被災地でなお苦労を強いられておられる方々が一日も早く日常を取り戻されることを、どうしても祈らずにはいられない。

 緊急事態において公的当局が何をすべきかと言えば、まずは必要な意思決定を即座に下すことだ。ともすれば状況が分かるまで様子をみたくなるのは人の常だが、これまでに日本は数々の緊急事態を経験してきた。それらを活かした初動についての知見がある。中央政府、地方政府も、それらを活かしてどう動くべきかについて、日常から繰り返し訓練をしている。後は、緊急事態に際し持ち場持ち場の責任者が決められた対応手順を迅速に実行することが大事だ。

 常日頃、このコラムで考えている金融・財政のマクロ安定化政策について言えば、ショックの大きさにもよるが、十分な財政支出を継続的に行うことが決定的に重要だ。そのためには金融取引が円滑に行われる状況が維持されていないといけないが、それはあくまでも前提であって、発生した様々な問題に対する本質的な対応は財政支出によってなされる。

 初動としての被災地支援、その後の復興対応、いずれも実際に何らかのかたちでの財政支出があって初めてかたちあるものとなる。東日本大震災の例を挙げるまでもなく、被災地の復興には一定の時間がかかる。その間、効率的に間断なく必要な財政支出が続けられなくてはならない。

1月14日、石川県輪島市の避難所を訪れ、被災者と握手する岸田文雄首相(代表撮影、写真:共同通信社)1月14日、能登半島地震の被災地を訪問し、石川県庁で記者会見する岸田文雄首相(代表撮影)。政府は16日に2024年度予算案を再編成し予備費を5000億円から1兆円に倍増した(写真:共同通信社)

南海トラフ、首都直下に十分な備えはあるか

 日本の公的当局が、そうした対応をとるための備えは、現在、十分と言えるだろうか。今回の震災の対応については、結局のところ国債を増発して必要な支出を賄わざるを得ない。金融市場はそうした変化を直ちに意識するが、今回の能登半島地震の場合は、これまでのところ何か大きなマイナスの変化が起きているとは言えない。それは幸運なことだ。

 近い将来に発生する確率がそれなりに高いと言われている、南海トラフ、首都直下といった地震を考えた場合はどうだろうか。それらについては、損失は桁外れに大きいと予想されている。財政面で、そうした災害からの日常復帰のために十分な備えができていると、果たして言えるだろうか。