12月18〜19日の日程で今年最後となる日本銀行の金融政策決定会合が終わった。今回、政策スタンスの変更はなかったが、2024年にはマイナス金利政策の解除なども予想されており、日本銀行の動向について注目度がさらに高まる。本稿では、元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が、2023年の金融政策を振り返り、2024年の課題を論じる。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
前体制とは「ものの語り方」が違う
何といっても2023年の大きな変化は、日本銀行の正副総裁が変わったことだろう。多くの市場参加者が既に気が付いていると思うが、それを契機に、日本銀行の「ものの語り方」も変わってきた。したがって、前総裁の下での執行部も含めた日本銀行のものの語り方を現時点で復唱してみても、それはあまり生産的ではないだろう。
例えばマイナス金利の位置付けだ。本当にその解除は「利上げ局面入りの第一歩、すなわち出口を出ることなのだ」と、今の日本銀行は考えているだろうか?
前体制の下では、短期金利について低水準が続くという期待を確固たるものとすべく、マイナス金利を止めないという語りに力点が置かれた。だからこそ、マイナス金利の解除は利上げ局面に入る第一歩という言い方にもなったのだろう。
日本のマイナス金利は、短期金利の変化を通じて金融仲介を活発化させ、経済活動に影響を与えるという効果は薄かった。そのことは、マイナス金利になっても、銀行の短期の最優遇貸出金利(短期プライムレート)が下がらなかったことに典型的に表れている気がする。他方、マイナス金利の導入で、長期金利は一時マイナスになるまで低下した。これは大きな変化だった。
ところが、以下で述べるように、長期金利はもはや完全にはコントロールできなくなり、本コラムでも繰り返し述べてきたように、マイナス金利の最大の効力はもはやなくなってしまった。さらに、昨今の内外の経済情勢を見渡して、日本の短期の政策金利が継続的に上がっていくという確固たるイメージを、合理的にどこまで持てるだろうか。そうした状況でもなお、マイナス金利を止めること即利上げ局面入りというのは、あまりにも短絡的な整理に思える。
2023年、長期金利が「コントロール」できるような性質のものではないことがかなりはっきりした。国債市場は規模も大きく、その参加者も多様だ。その参加者の多くが日本銀行と同じビジョンを共有していれば、あたかも日本銀行がコントロールできているかのようなイールドカーブが現出する。
しかし2022年の後半から、実は常にそうはいかないことが次第に明らかになり、日本銀行は金融市場の判断をより尊重する政策運営を行うようになった。