安倍政権以上の財政拡張策をとる岸田政権(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 コロナ禍をきっかけに世界をインフレの波が襲った。コロナ前には「低成長・ゼロインフレ・ゼロ金利」の長期停滞が指摘されていた日本も、急激な超円安・高インフレに直面した。世界と日本の経済はどう変わったのか。『グローバルインフレーションの深層』(慶應義塾大学出版会)を上梓したBNPパリバ証券のチーフエコノミスト・河野龍太郎氏に聞いた。(聞き手:大崎 明子、ジャーナリスト)

「インフレは一時的」は専門家の間違い

──コロナ禍後に起きた急激なインフレに対して、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)はともに金融政策の転換が遅れて、急激な利上げを余儀なくされました。『グローバルインフレーションの深層』では、このことについて、「専門家ほど間違う」と書かれています。

河野龍太郎氏(以下、河野):大きくインフレの状況が変わったことが過去3回あります。1960年代末に始まった「大インフレ時代(グレートインフレーション)」、1980年代半ばからインフレが収束していった「大いなる安定(グレートモデレーション)」、そして今回のパンデミックをきっかけに始まった「グローバルインフレーション」です。

 LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミスト)のリカルド・ライス教授は論文で、この3回とも、専門家ほど物価見通しを見誤ったと指摘しています。2021年に高いインフレ率が観測され始めたとき、パウエルFRB議長もラガルドECB総裁も、「インフレは一時的」と繰り返していました。民間エコノミストの多くもそうでした。

 一方で、専門家とは逆に、アンケート調査では早い段階から、高インフレが続くと見る家計の割合が増えていったのです。これは日本でも同様で日銀の「生活意識に関するアンケート調査」では、2021年の後半から、物価の上昇を懸念する人の割合が増えていました。

 ライス教授によれば、中央銀行がインフレ加速を無視してしまった理由は2つあります。

 1つは「パンデミック中の2020年に下落した価格が正常な水準にキャッチアップするための調整過程」と見てしまったこと、2つめにコロナ禍前の2014~19年にインフレ率が2%を下回っていたことを憂慮していたため、2%を超えるインフレはむしろ歓迎すべき、という主張のあったことでした。

 また、専門家の多くが労働供給の減少、サプライチェーン問題、ウクライナ戦争などに起因する供給制約ばかりをインフレの原因と考えたことも、「一時的」と見誤った一因です。

 この点については、私自身は今回のインフレは先進各国の政府がコロナ禍対策として行った大盤振る舞い、すなわち大規模な財政拡張と金融引締めの遅れが引き起こした需要拡大の影響がより大きいと考えていましたが、ライス教授も同様に需要ショックが主因という指摘をしています。