日本銀行が政策を誤れば、政府、企業、国民それぞれに大きな影響を与える(写真:ロイター/アフロ)日本銀行が政策を誤れば、政府、企業、国民それぞれに大きな影響を与える(写真:ロイター/アフロ)

日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)をさらに弾力化させ、1%超の長期金利を一定程度容認することを決めた。ただし、それは単に長期金利の決定を金融市場に委ねるものではない。現実に金利急上昇のリスクはあり、それが起こった場合のマイナス面を考慮しつつ金融政策を遂行する必要がある。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事は、これからの日本銀行には「イールドカーブ・アジャストメント(YCA)」とも呼ぶべき慎重な手綱さばきが求められると主張する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

日銀が「政策修正に追い込まれた」わけではない

 日本銀行は、10月末に開いた金融政策決定会合で、再び長期金利の操作(コントロール)のあり方を変えた。超金融緩和政策の下、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)によって金利を抑え込んできたが、長期金利が1%を一定程度超えても容認することを決めた。

 小欄でも繰り返し指摘してきたように、長期金利は、本来、中央銀行がコントロールできるものではない。グローバルな金融経済環境が、あたかも日本銀行がコントロールできるかのような状況であったにすぎない。それが長短金利操作のリアリティ(現実)だった。

10月の金融政策決定会合を受けて記者会見する植田和男・日本銀行総裁(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)10月の金融政策決定会合を受けて記者会見する植田和男・日本銀行総裁(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)

 もちろん、中央銀行は長期金利に影響を与えることはできる。

 日本で長期金利ゼロの状況が続いたのは、日本銀行の超金融緩和政策あってのことである。しかし、グローバルな金融経済環境は大きく変わった。コロナ禍のショック、ロシアのウクライナ侵攻、中東での戦火、米中対立の先鋭化。そうしたことは、グローバル経済の供給面に大きな影響を与えた。

 その結果としての需給バランスの変化が、基調的なインフレ率を変えてしまったようだ。さらに、地政学上の変化が将来の不確実性を高め、その面から長短金利差(タームスプレッド)が恒常的に拡大した可能性も否定できない。

 そのようなかたちで長期金利に上昇圧力が加わる時、日本においても長期金利は中央銀行が思うようにはコントロールできなくなる。10月の変更について「日本銀行が再び政策修正に追い込まれた」との評価もよくみるが、現実は「客観的な環境の変化に対応している」というのがフェアな評価だろう。

 それでは、日本銀行は、かつてのようにシンプルに「長期金利は金融市場が決めるもの」とのスタンスに戻れるかというと、おそらくそうではない。