米国では、大統領選挙を11月に控え、民主・共和の両党で候補者選びが進んでいる。共和党候補としてはトランプ前大統領の優勢が伝えられており、同氏の発言が早くも注目されている。金融政策に関連しては、自身が当選した場合、現在の連邦準備制度理事会(FRB)の議長で2026年5月に任期満了を迎えるパウエル氏を再任しないとインタビューに答えたという報道がなされた。金融政策を巡って議論になることもある中央銀行の独立性について、元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
日本銀行法にはどう書かれているか
金融政策を遂行する中央銀行と政治との距離は、どこの国でもしばしば議論になる。日本でも日本銀行と政権与党との関係が、さまざまなかたちで報道されてきた。
真実がどうであったか、必ずしも全てが明らかなわけではないが、金融政策運営を巡る判断について、政権与党が明確な意思を発信したことは、過去10年ほどを振り返っても何度もあった。
そもそも日本銀行の「独立性」とは具体的に何を意味しているのか。日本銀行法の第3条第1項には、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」とある。これは金融政策の独立性を定めているという解釈が日本銀行のホームページに載っている。
また、同じく第5条第2項では、「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」とある。同様に、これは業務運営の自主性について定められているという解釈がなされている。
緩和的な運営を求める圧力が強くなりがち
そうした独立性がなぜ重要かと言えば、往々にして金融政策については、緩和的な運営を求める圧力が強くなりがちだからである。
短期的には、金融緩和は目の前のさまざまな経済活動の調整コストを軽くする。しかし、金融緩和が行き過ぎると、結局いつかはインフレになる。長期的にみれば、制御できないインフレは経済活動を著しく停滞させる。
民主主義の多数決においては、時として短期的な判断が優先される。したがって、金融政策の意思決定に携わる者の任期を一定以上長くして、短期的な判断の振れに惑わされず、長期的にみて国民経済にとって最善の金融政策を実現した方が良い。そういう社会の知恵から、制度的に中央銀行の独立性が確立してきたのだと言える。