(英エコノミスト誌 2024年7月20日付)
政治の混乱をよそに続く投資家の熱狂は報われそうにない。
この1年間の月日は中東に戦争をもたらし、西側諸国と中国の貿易紛争のエスカレートをもたらし、7月13日には米国大統領選挙の最有力候補の暗殺未遂が起きた。
だが、金融市場に目を向ければ、不都合なことは何一つ起きていないと思うだろう。
どれほど人の血が流れようと、どれほど政治的な怨恨が募ろうと、ウォール街の関心を明るい経済ニュース以外の分野に向かわせることはできないようだ。
なるほど、景気後退への不安は今のところ杞憂に終わっているし、それにもかかわらずインフレ率は低下している。
その結果、米国や欧州、日本では株価が史上最高値かそれに近い水準で推移しており、新興国でも多くの株式市場が活況を呈している。
まさに楽観論一色だ。
米国企業との利益と比べ、米国株が今ほど割高になった上昇局面は、過去に2度しかない。
トランプ暗殺未遂と党派的な憎悪
ドナルド・トランプ氏を暗殺する企ては、たまたま標的がトランプ氏になっただけで甚大な影響は生じないのかもしれない。
米国では昔から政治家が命を狙われている。
1975年にはジェラルド・フォードが2度、1981年にはロナルド・レーガンが1度襲われたが、いずれも危機にはつながらなかった。
それでも、党派的な憎悪ゆえに狙われたのではないかと容易に想像されること自体、米国政治が機能不全に陥っていることを、そしてそれが世界の秩序の乱れへと波及していることを思い出させてくれる。
またトランプ氏と若い副大統領候補J・D・バンス氏が連帯感の波に乗ってホワイトハウス入りを決めたりすれば、新たな混乱期がまた始まることになる。
共和党大会での演説で示されたように、バンス氏はトランプ氏の孤立主義的な本能をより雄弁に増幅する。
これでは、欧州が北大西洋条約機構(NATO)による安全保障の傘の喪失と、米国の貿易保護主義の高まりという経済面の痛みを同時にくらう恐れがある。