(英エコノミスト誌 2024年7月20日号)

ウィスコンシン州ミルウォーキーで行われた共和党全国大会最終日、大統領候補受諾演説を終えたトランプ前大統領とメラニア夫人、右は副大統領候補のバンス上院議員夫妻(7月18日撮影、写真:AP/アフロ)

熱狂的なMAGA派の反グローバル主義者は、平均的な副大統領候補よりも重大な影響を及ぼす。

 米国はこのほど、レーニンの「数十年(分の出来事)が起きる週」を経験した(編集部注:レーニンは「何も起きない数十年もあれば、数十年が起きる週もある」と言った)。

 銃撃犯のトーマス・マシュー・クルックスがあと1インチ右に撃っていたら、ドナルド・トランプが振り返っていなかったら、前大統領は今頃もう死んでいた。

 幸い、トランプ氏は重傷を負わなかった。別の形でも幸運に恵まれた。

 フロリダ州では、連邦地裁の判事がトランプ氏の訴訟のうち検察側が最も有利だった事件の起訴を却下した。

 また、撤退を求める民主党関係者が増えているとはいえ、弱い立場に追い込まれたジョー・バイデン大統領がまだ選挙戦にとどまっている。

 ウィスコンシン州ミルウォーキーで7月半ばに開催された共和党全国大会では、トランプ氏の存在は神の摂理の兆しとして受け止められた。

 参加者は「45/47」と書かれた野球帽をかぶっていた。

 第45代大統領と第47代大統領を表すロゴは、以前は願望だった。それが今では予想のように見える。

トランプ完全支配が浮き彫り、共和党大会

 民主党がトランプ氏に対して使える最も強い主張の一つは、同氏が民主主義の規範を脅かすというものだ。

 ところが、銃撃の瞬間に見せた勇気は、ほんのつかの間とはいえ、トランプ氏を米国の価値観に対する脅威というよりは、その擁護者のように見せた。

 事件後に団結を呼びかけた発言は、同氏が危険な世界における強い指導者だという主張を裏付けた。

 確かに、暗殺未遂によって世論調査にどんな影響が出たとしても、その効果は一時的かもしれない。

 米国は党派心があまりに強いため、候補者の頭上には強化コンクリートでできた天井がある。両党の融和的なムードも薄れていく。

 しかし、銃撃事件とその後の出来事がもたらす一部の影響は永続するかもしれない。

 まず、7月半ばの1週間はトランプ氏がどれほど完全に共和党を牛耳っているかを浮き彫りにした。

 同氏を大統領候補に指名するために前回対面で開かれた2016年の共和党大会では、著名な支持者があまりにも少なかったことから、大会の目玉の役割がトランプ・ワイナリーの支配人に与えられたほどだった。

 同年の選挙の数週間前には、当時の共和党トップの下院議長がトランプ氏の行動をもう擁護できないと語っていた。

 2021年1月、トランプ氏は不名誉のうちにホワイトハウスから引きずり出された。

 今年の春頃、指名争いの対抗馬だったニッキー・ヘイリー元国連大使は「今では公然とトランプを支持している多くの政治家は、内心では彼を恐れている」と語った。

 ミルウォーキーでは、ヘイリー氏はトランプ氏への支持を表明した、まさにそうした人たちの行列に入っていた。主要政党から3回指名された大統領候補はリチャード・ニクソン以来初めてだ。