(英エコノミスト誌 2024年7月6日号)

バイデン氏に引導を渡すことは民主党にとっても米国にとっても、ひいては世界中の民主義国家にとっても大切なことだ(7月5日撮影、写真:ロイター/アフロ)

大統領と民主党は民主主義の救い主を名乗っている。その振る舞いは別のことを物語る。

 米国大統領選挙の公開討論会はジョー・バイデン氏にとってひどい結果になったが、それを糊塗しようとする動きはもっとひどい。

 高齢の男性が困惑しながら、言葉や事実関係を思い出そうと一生懸命になっている姿を見るのは忍びなかった。

 弱い相手との議論なのに決着をつけられない様子には落胆を禁じ得なかった。

 だが、何千万人という米国民がその目で見たことを否定するバイデン陣営のやり方は、そのどちらよりも有害だ。

 なぜなら、正直さに欠ける対応ゆえに軽蔑を招いてしまうからだ。

 討論会の影響で、ホワイトハウスはドナルド・トランプ氏の手が届く範囲に入った。

 最新の世論調査によれば、バイデン氏は勝たねばならない複数の州で有権者に背を向けられてしまった。

 バージニア、ミネソタ、ニューメキシコなど、かつて確実とされた州でさえ、バイデン氏のリードが揺らぐ恐れがある。

米国大統領に求められる資質

 バイデン氏は晩年の衰えではなくその偉業と品位で記憶されるに値する人物だ。したがって、民主党の上層部が大統領選からの撤退を公の場で要請したのは正しい判断だ。

 しかし、人々の心の内に秘められた失望の高まりに比べれば、何もしていないに等しい。

 もっと多くの民主党政治家が喫緊に、自分たちが今声を上げなければトランプ氏が勝ってしまうという事実に向き合う必要がある。

 今の米国が明らかに必要としている政治の刷新を実現するために、バイデン氏に選挙戦からの撤退を求めなければならない。まだ間に合う。

 トランプ氏は大統領には不適格だと民主党は言う。それは確かにその通りだ。だが、先日の討論会とその結果は、バイデン氏もまた不適格であることを証明した。

 第1の理由は、同氏に精神的な衰えが見て取れることだ。

 用意された原稿を読み上げる短時間の出番であれば、まだ活力に満ちた姿を見せることができる。だが、超大国のかじ取りをカンペでこなすことはできない。

 それに、大統領がぐっすり眠れなかったからという理由で、国際的な危機の発生を待ってもらうことはできない。

 メディケア(米国の高齢者向け医療保険制度)についての話が尻切れトンボになってしまうような人物に、核ミサイルを発射させる暗号を預けることなどできるだろうか。