(英エコノミスト誌 2024年6月15日号)
リードを維持したいなら、米国は中国への締め付けを緩めるべきだ。
中国共産党と米国の安全保障タカ派の意見が一致することが一つあるとするなら、それは地政学的、経済的、そして軍事的優位性を手に入れる秘訣はイノベーションにあるということだ。
習近平国家主席は、中国が科学技術を背に米国を追い抜くことを期待している。
片や米ワシントンの政治家たちは、輸出規制と制裁措置を組み合わせて中国が技術的優位性を手に入れるのを防ごうとしている。
米国の戦略はうまくいきそうにない。
本誌エコノミストが今週号で報じているように、中国の科学とイノベーションは今、急速な進歩を遂げている。
米国は対策の方向性も誤っている。
もし米国が中国に対するリードを維持したいのであれば――そして中国の才能豊かな科学者たちの研究成果から最大限利益を得たいのであれば――中国の科学への締め付けを緩め、米国自身が先に進むことにもっと力を入れた方がいい。
中国の技術が鼻であしらわれたのも今は昔
欧米は何世紀もの間、中国の技術を鼻であしらっていた。
自尊心が高いヨーロッパ人は、あれほど遠い土地で羅針盤や石弓、溶鉱炉が発明されたことを、なかなか受け入れられなかった。
この数十年間、中国が世界経済に参加し、猛スピードで他国に追いつきつつ西側諸国の知的財産権を侵害したことは、中国が往々にしてイノベーターというよりは模倣者や泥棒だったことを意味した。
その一方で、中国の科学は見くびられてもいた。それは、国家が研究者らに科学論文の粗製濫造を奨励していたためでもあった。
そういった古い考え方はもう捨てるべきだ。
今や中国は世界をリードする科学大国の一翼を担っており、特に化学、物理、材料科学の分野で世界トップクラスの研究成果を上げている。
研究者が権威ある学術誌に投稿する論文の数は米国や欧州連合(EU)のそれよりも多く、頻繁に引用される論文の数でも欧米を上回る。
清華大学と浙江大学はそれぞれ、米マサチューセッツ工科大学(MIT)と同じくらい先進的な研究を行っている。
中国の研究機関にはスーパーコンピューターや超高エネルギー検出器、低温電子顕微鏡といった最先端機器もある。欧州や米国の至宝にはまだ及ばないものの、見事な設備だ。
そして、中国には才能のある研究者が大勢いる。
西側で研究したり働いたりしてから祖国に戻る人が多い。中国国内でも育成している。
世界トップクラスの人工知能(AI)研究者のうち、最初の学位を中国で取った人は米国で取った人の2倍以上に上る。