(英エコノミスト誌 2024年6月15日号)
だが、大統領は大きなリスクを取ることになる。
サイコロを振って運を天に任せるしかないことが時折ある。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は6月9日の夜、そのような局面に立たされた。
欧州議会選挙でマリーヌ・ルペン氏の率いる国民連合(RN)がマクロン氏の党「再生」の2倍の票を得たという、とてつもない知らせが届いた。
マクロン氏はすでに、フランスの国民議会で少数与党での政権運営を強いられており、法案を通すにはほかの政党の支持をできるだけ多くかき集めなければならない状況にあった。
そのため、欧州議会選挙で大勝利を収めたことでルペン氏の株が上がり、マクロン氏のレームダック状態がさらにひどくなる恐れがあった。
野党が足並みを揃えて大統領の予算案を否決することで、どのみち年内の解散総選挙を強いられるシナリオがかなりの現実味を帯びることになった。
まさに切羽詰まった状況だった。
米国と同様に、フランスの大統領も議会で過半数を取っていなければ国内問題の法案を通すことがほとんどできない。
現時点でマクロン氏の党は過半数を得ていないが、ほかの党が議員の過半数をまとめ上げて政権を担えるかと言えば、それもない。
そのためマクロン氏は自らイニシアチブを発揮し、丸3年も早い議会解散・総選挙に打って出た。初回の投票は今月末日だ。
賭けの腹積もり
この大胆な対応でマクロン氏の状況を好転するのか、それとも悪化するのか。
選挙が有利に働く可能性はある。大統領は、フランス国民に中道か極端かの選択を迫りたいと考えている。
選挙は初回投票と決選投票の2段階方式で行われるため、中道の有権者には、RNを抑え込んでおくように決選投票で戦術的な投票行動を取るチャンスが手に入る。
たとえマクロン氏の党が過半数に近づけなくても、ほかの穏健政党に共闘を呼びかけてRNの政権樹立を阻止することができるかもしれない。
困ったことに、中道右派の共和党を率いるエリック・シオティ氏はRNと組みたい考えを表明した。
この発言は党内で反発を買い、投票を経て除名された。選挙後の連立競争は熾烈なものになるだろう。
しかし、フランスはもっと警戒を要する可能性にも直面している。それは、総選挙でRNが勝利を収める可能性だ。
総選挙で勝てばルペン氏が首相になると決まっているわけではない。ルペン氏自身、もしそうなったら若い愛弟子で同党党首のジョルダン・バルデラ氏を推薦すると述べていた。そうしておけば、ルペン氏は2027年の大統領選挙に備えることができる。
RNはフランスにとってどれぐらいひどい政権になるのだろうか。
ひょっとすると、壊滅的とまではいかないかもしれない。政権を取れば国内政策のほとんどを実行することになり、予算の作成にも携わることになる。
従って多くの領域で、その政権のせいでフランスが中道から極右寄りになる可能性はある。
ただ、フランス憲法は大統領に強大な権限を与えている。外交・国防政策については特にそうだし、拒否権も付与している。
欧州連合(EU)との関係やウクライナへの支援には、それほど大きな変化はないかもしれない。