(英エコノミスト誌 2024年7月6日号)
過熱する労働市場と需要減退と物価上昇のパラドクス
過去30年間の大半において、日本経済はデフレ、景気の停滞、国際的な地位の低下が特徴になっていた。今はもう違う。
1991年から2021年までの年間物価上昇率の平均は0.35%だったが、2022年4月以降は毎月2%を超えている。
今年3月には日銀が17年ぶりの利上げに踏み切り、マイナス金利の実験を世界で最後に終える国になった。
今月末に予定されている会合では追加利上げの是非について話し合う見通しだ。
優良銘柄で構成される日経平均株価は今年2月にバブル期の高値を更新し、市場全体の動きを表す東証株価指数(TOPIX)も6月末に1990年以来の高値更新を実現した。失われた数十年間は終わったかに見える。
先行きに楽観論と悲観論
だが、今後はどうなるのか。
一方には、チャンスがめぐってくるという人がいる。日本は復活した、今度こそ本物だと楽観論者は胸を張る。大手金融機関モルガン・スタンレーは「蘇った日本」への投資を勧めている。
インフレ率の上昇と活力を高めた企業がこの国を経済成長の軌道に戻し、公的債務の増加に歯止めをかけ、世界的な経済大国の地位に踏みとどまれるようになる。
また、日本はサプライチェーンの強化を目指すハイテク企業の投資先にもなっている。半導体製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)は数十億ドルを投じて日本に新工場を建設中だ。
他方には悲観的な見方をする人がいる。
曰く、日本経済はここ3四半期連続で成長率がマイナスかゼロにとどまっており、すでにマイルドなスタグフレーションに陥っている。
長期の潜在成長率は相変わらず低く、外国為替市場では円が急落しており、人口動態の向かい風も迫ってきている。
これでは日本は将来、重い債務負担、弱い通貨、そして労働力の高齢化を特徴とする二流経済国家になってしまうと悲観論者は危惧している。