(英エコノミスト誌 2024年7月13日号)

フランス革命記念日のパレードに出席したエマニュエル・マクロン大統領とブリジット・マクロン夫人(7月14日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

政党のライバル関係が妥協を阻み、政治が膠着する恐れがある。

 安堵の後に混乱が訪れた。

 7月7日に行われた議会選挙の決選投票でマリーヌ・ルペン氏率いる極右勢力が有権者に拒絶された時、フランスは崖っぷちから引き返した。

 極右勢力は第3位に後退し、議会はどの勢力も過半数に達しない「ハングパーラメント(宙づり議会)」に戻った。

 だが、おかげでフランスは新たな不確実性に陥った。

 日刊紙ル・パリジャンは困った表情をしたエマニュエル・マクロン大統領の顔写真を1面に載せ、その上に「さあ、どうする?」という見出しを掲げた。

 欧州のほかの国なら話は簡単だ。ライバル政党が膝詰めで議論し、どうすれば連立政権を組めるかを探る。

 ところが、フランスでは政治において妥協することは好まれない。

 フランスは誰なら国を統治できるかを探りつつ、はったり、ポーズ、混乱、そして駆け引きが展開される局面に入った。

極右政権の誕生は阻止できたが・・・

 今回の国民議会(下院)の解散選挙の決選投票は世論調査の裏をかく結果となり、ルペン氏の率いる国民連合(RN)とその仲間を落胆させた。

 極右勢力は定数577の下院で143議席を獲得し、解散前の88議席から大きく躍進した。

 だが、2回投票制の決選投票で約1000万票を獲得したにもかかわらず、政権奪取に必要な289議席には遠く及ばなかった。

 決選投票前にはよく聞かれた、誰が何の大臣になるかという下馬評は消え去った。

 ルペン氏が首相候補に挙げていた28歳のジョルダン・バルデラ氏は、議席喪失に至った可能性のある「ミスキャスト」があったことを認めた。

 候補者の選定を急いだため、いかがわしい人物を数人選んだということだ。ルペン氏はただ「勝利が延期された」と述べるにとどめた。

 リベラルな民主主義者にとって、少なくとも短期的に朗報になるのは、極右を政権から遠ざけておくための議員連合「共和戦線」が持ちこたえたことだ。

 マクロン氏の中道派と、ジャン・リュック・メランション氏の左派連合「新人民戦線(NFP)」が、反極右票が割れるのを避けるために戦術的に手を組み、200を超える選挙区で候補者を撤退させたことが奏功した。

 また、サッカーのキリアン・エムバペ選手などのスポーツ界のスターも団結し、「過激な勢力に」投票しないよう国民に呼びかけた。

 投票率は67%と、国会議員の決選投票では27年ぶりの高水準に達した。

 このうち3分の2近くに相当する有権者が、RN以外の党の候補者に投票した。

 しかし、もしマクロン氏が選挙で明確な結果を求めていたとするなら、その目標はほとんど達成できなかった。

 有権者が選んだのは、分断された国を反映する細分化された議会だった。

 左派の支持者でさえ驚いたことに、4党の連合体であるNFPが182議席を獲得し、最大勢力に躍り出た。マクロン氏の中道連合「アンサンブル」が168議席でこれに続いた。

 アンサンブルは100議席近くを減らして大幅後退した。

 だが、完全に吹き飛ばされたわけではなく、現在は議会内でキャスティングボートを握る立場に立った。