北海道札幌市の歓楽街「ススキノ」にあるホテルで、頭部のない男性の遺体が発見され、田村瑠奈被告とその両親の3人が逮捕された。7月1日、札幌地裁にて、浩子被告(瑠奈被告の母親)の2回目の公判が開かれ、修被告(瑠奈被告の父親)も弁護人側の証人として出廷した。
猟奇的な殺人や死体の損壊、瑠奈被告の長年の引きこもり生活や両親に対する支配的な関係など、この事件には特異な点が多々見られるが、いずれも瑠奈被告の抱えていた心の問題が関係している。長年引きこもりの人たちと向き合ってきたプロは、この事件をどう見るのか。精神科医の斎藤環氏に話を聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──事件の報道を見て、どんな印象をお持ちになりましたか?
斎藤環氏(以下、斎藤):猟奇的と評される部分に世の中の注目が集まっていますが、私がこの事件で印象的なのは、瑠奈被告と両親の関係です。子どもが長期引きこもり状態にあり、親に対して暴言を吐いたり、暴力を振るったりするような関係性が温存されている場合には、こうした支配的な関係は珍しくありません。
子どもが両親に対して様々な命令をして、両親が言われるままになってしまう。一種の「洗脳」のような状態はどの家庭でも起こりうることです。
──瑠奈被告は中学で不登校になり、フリースクールに通うようになりますが、あまり通わず、18歳から本格的に引きこもりになったようです。彼女は事件を起こした時には30歳でした。通院先からは「解離性同一性障害(多重人格)」や「統合失調症」と言われていたようです。しかし、半年の鑑定留置を経て、責任能力ありと判断されました。
斎藤:解離性同一性障害と統合失調症という診断が出ていたようですが、この二つはほとんど合併することのない疾患です。解離性同一性障害は幻聴を伴うことがあるので、統合失調症と誤診されるケースもあります。
彼女が別人格を名乗っていたと報じられていますが、そうした断片的な情報だけでは、瑠奈被告が本当に解離性同一性障害かどうかは判断できません。
そして、解離性同一性障害は、統合失調症に対して行われる薬物療法では改善しません。これが二つの疾患の重要な違いになります。
※「解離性同一性障害」とは、一人の中に複数の人格が共存する精神疾患。異なる人格が異なる主張や意思を見せる。「統合失調症」とは、幻聴が聞こえたり、幻覚が見えたりする妄想性の精神疾患。幻聴の指示で問題行動を起こす場合もある。
解離性同一性障害を患っている方が、別人格が出ている時に犯罪行為をしたとしても、責任能力が認められることが多いので、鑑定留置を経て「責任能力あり」と判断されたことは妥当だと私は思います。
──解離性同一性障害は統合失調症の一部なのかと思っていましたが、両者は全く別物なのですか?
斎藤:全く異なる疾患です。解離性同一性障害は幼児期のトラウマなどが原因となり、自分の中に複数の人格が共存する状態になってしまう疾患です。統合失調症とは全く異なるメカニズムの疾患と考えられています。治療法も違います。