精神科医が家族を治療することはほとんどタブー

──相当稀なことが起きているということですか?

斎藤:そうですね。引きこもっている子どもと、その家族の関係性という点からいうと、珍しい状況ではありませんが、引きこもりの方が、家族と共に、ややリスクの高い場所に行くことは非常に稀だと思います。

──瑠奈被告の異常さが注目されていますが、同時に、彼女の父親が精神科医であったことも驚きでした。精神のプロとて、自分の家族の暴走は止められないものでしょうか?

斎藤:精神科医に限りませんが、医師には家族の治療ができないということは、医療業界の常識です。医師も家族と対峙すると冷静ではいられなくなり、判断がつい極端に偏ってしまうことがしばしば起こるからです。特に精神科医のように、心の問題を扱う医師の場合は、家族に対する治療はほとんどタブーだと言えます。

──7月1日に瑠奈被告の母親(浩子被告)の2度目の公判があり、この時に、父親(修被告)も出廷して証言をしました。両親は娘に一方的に支配された状態だったと報道されてきましたが、実際は必ずしもいつもそうだったわけではなく、ダメな時は「ダメだよ」と言って娘を止めることもあり、何でもかんでも言うことを聞いていたわけではなかったそうです。「支配されていた」というより、娘の治療を考えて、それなりに冷静に対応していたような印象も受けました。

斎藤:その可能性はあります。ただ、事件後の両親の対応を見ると、明らかに娘が犯罪をおかしていると知っても警察に通報しなかったなど、いろんな点で家族としての思いが先走っているという印象があります。瑠奈被告のマインドコントロールの影響があったのかもしれませんが、やはり常識的な判断ができていなかったように見受けます。