過去最多の56名が立候補した東京都知事選挙は、現職の小池百合子氏が3選を決めた。驚いたのは、小池氏の最大の対抗馬と思われた蓮舫氏がまさかの3位に沈み、次点に元安芸高田市長の石丸伸二氏が躍り出たことだ。小池、蓮舫、石丸の各氏はともに「無所属」での出馬だが、石丸氏については政党のバックアップが全くないなかでの躍進になる。
いったい都知事選で何が起こっていたのか。元産経新聞記者で現在は永田町でロビイストとして活躍する山本雄史氏と、世論調査や選挙予測も手掛けるJX通信社代表の米重克洋氏が分析した(JBpress)。
「小池vs蓮舫」の構図を巧みに避けた小池氏
山本雄史氏(以下、山本) 「小池圧勝」となった都知事選ですが、この結果は当初から想定されていました。特に連合が蓮舫さんではなく小池百合子さんの支援に回ったことが決定的でした。ただ当初は小池さんと蓮舫さんの争いになると見られていただけに、石丸伸二さんの2位という結果は想定外でした。
米重克洋氏(以下、米重) 選挙戦序盤では「石丸さんが2位になる可能性も半分くらいはあるかな」と見ていましたが、報道各社の情勢調査を見ていても、投票日直前になって石丸さんの伸びがすごかったですね。
山本 まず小池さんの戦略と勝因からいきましょう。小池さんの政治家人生は自身の選挙で11戦11勝(2009年衆院選は比例復活)。負けた経験がない。しかも今回は現職知事の立場ですから、そもそもちょっとやそっとでは勝てない存在です。
米重 争点は「小池都政の是非」で、マスコミ的には「小池vs蓮舫」という構図で捉えていましたが、小池さんはその構図を意図的に作らせなかった。告示前の定例記者会見で蓮舫さんについて質問された小池さんは、「でも今回は50何人、候補者が出るみたいですし」などと語って、蓮舫さんに触れようとしませんでした。要するに「小池vs蓮舫」ではなく「小池vsその他大勢」という構図を強調し始めたんですね。
その後もたびたび蓮舫さんについて質問される機会がありましたが、おそらく小池さんは「蓮舫」の名前も口にしなかったはずです。逆に、蓮舫さんを批判することもせず、あくまで自分の政策に話を持っていく。1対1の構図を作らせないことに徹した結果、「小池vsその他大勢」の構図の中に巧みに蓮舫さんを埋没させていったような印象でした。
山本 小池さんは「反射神経」がいい。蓮舫さんが出馬表明したときには小池さんも一瞬ヒヤッとしたと思います。蓮舫さんの出馬表明は、自民党候補に逆風が吹いて敗れた静岡県知事選の翌日でした。蓮舫さんはその「反自民」のムードを利用して、自民党と連携しようとしている小池さんを追い詰めようという意図があったと思います。
そこに危機感を感じた小池さんは、予定していた出馬表明の時期を先送りし、蓮舫さんへの注目度が落ち着く時期を見計らって出馬を宣言した。その後は支援してくれている自民党や公明党の陰をなるべく隠し、「AIゆりこ」を投入したりして自分のペースにもっていくことに成功しました。
振り返ってみれば、2005年の郵政解散に伴う総選挙で刺客第一号になって小泉劇場の立役者になったり、2016年に自民党を飛び出して初めて都知事選に臨んだ際には、増田寛也氏を推した自民党東京都連の内田茂幹事長を「都議会のドン」と批判することで有権者の共感を集めて知事に上り詰めたりするなど、小池さんは要所ごとでの反射神経がいい。今回もその本領が発揮された選挙だったんじゃないですかね。