人間の記憶がいかに当てにならないか

 例えば、伝える側が重要な内容だと考えて話しても、受け取る側は重要だと感じず忘れてしまうケースがある。これも、スキーマの違いによって起こる事態だ。自分と相手の価値観や優先順位は違う、と意識して発信する必要がある。

 同時に、人間の記憶がかなり曖昧だということも知っておきたい。

たとえ嘘をつくつもりがなくても、誰かの発言や自分の願望、感情、そして自身のスキーマによって、記憶は影響を受け、あなたにとっての「事実」がいつの間にかつくり上げられてしまうのです。

「言った」「言わない」で口論になった経験は、誰でも一度はあるのではないだろうか。すれ違いや記憶違いの背景にあるのは、人間の認知能力の問題なのだ。

コミュニケーションに欠かせない認知能力、しかし…

「頼んでおいた仕事が締め切りまでに終わらない」「約束の時間を忘れてしまう」…こうしたトラブルも認知能力のあやふやさが原因になっているケースがある。一度自分が正しいと思い込んでしまった事柄に関しては、間違っていると自覚するのも難しいからだ。

 また、人間はそれぞれスキーマを通して世界を理解しているため、どうしても視点や考えに偏りが生まれる。加えて、自分が認識したごく一部の情報を「すべて」だと思い込んでしまったり、自分に合わない情報が頭に入ってこなかったりする傾向もあるのだ。

 人間の認知能力は、コミュニケーションに必須な能力であるとともに、「何回説明しても伝わらない」ことの原因になっている点を理解しておきたい。そのうえで、“伝わらない”を改善するためにどうしたらいいのか。