監視社会なのに治安に不安も

 実際、「中国版LINE」であるWeChat(微信)を運営するテンセント(騰訊)は、6月29日に「中日の対立を煽動し、極端な民族主義の挑発に関連する内容を攻撃する」と題した公告を発表した。

<テンセントはインターネットの状態のコントロール活動を、常に高度に重視してきた。そして企業が主体的な責任を持って、グリーン、健全、文明的なインターネット状態の環境を厳格に履行してきた。

 最近、蘇州高新区で起こった傷害事件は、インターネット上に拡散し、世論の関心を引き起こしている。中にはインターネット上で中日対立を煽動し、極端な民族主義を挑発し、各種の極端な言論をぶち上げているものもある。

 プラットフォームでは、この種の違反した内容と登録番号に対して、決然と打撃を与えていく。すでに処置をした違反内容は836件、違反番号は61個に上る。違反状況とプラットフォームの規則を見ながら、禁止用語や番号封鎖などの処理を取っていく>

 それでも日本側の動揺は、現地の日系企業を中心に広がっている。6月28日、北京の日本大使館と上海の日本総領事館は、胡さんの弔意を示して半旗を掲げた。そんな中、金杉憲治駐中国大使は、7月1日に日本経済新聞に掲載されたインタビューで、今回の事件を踏まえて、こう述べている。

「中国東北部の吉林省でも10日、米国人の大学教員ら4人が刃物で刺された。中国に対する日本人の心理的な敷居がさらに高くなり、旅行や訪問に影響が出てこないか心配だ。

 中国は監視社会で自由が制限される半面、治安はよいとみられてきた。実際はそうでないと感じる人もいるかもしれない」

 5月14日に中国の日系企業の親睦団体である中国日本商会が発表した「日系企業1741社アンケート」は、現地の日系企業の中国に対する「消極的な態度」が、明確に反映されていた。例えば、「今年の投資額は昨年と比べてどうか?」という質問に対し、「大幅に増やす…2%、増やす…14%、前年と同額…40%、減らす…22%、投資しない…22%」との回答だった。

 今回の痛ましい事件を契機にして、日中関係は「雨降って地固まる」となるだろうか。現時点では、それほど楽観的にはなれない。