「寄付は私たち遺族ではなくぜひ地域の基金会に」

 今回も、胡さんの遺族が地元の『蘇州日報』を通して、こんなコメントを発表している。

<ここのところ、各方面からの関心や慰問を受けており、心から特別の感謝を申し上げます。このような状況に遭遇したなら、正義と愛の心がある人であれば誰でも同様の選択をしたことと信じます。

 家族で話し合って一致したこととして、あらゆるお金や物の寄付を受けません。同時に面倒なことにも関わりたくありません。ただ故人を安息にしてあげて、家族が一刻も早く平静な生活を取り戻すことを願うばかりです。もしも愛の心がある方が前向きな気持ちでお金や物を寄付したいのであれば、どうぞ各地域にある見義勇為基金会に行って下さい>

 周知のように、現在の中国は、不動産バブルの崩壊などで未曽有の不況下にある。失業者や就業できない人たちが各都市にあふれ、彼らは当局に対して不満を抱いている。

 当局としては、胡友平さんを「愛国の士」に奉ることで、そうした人々の不満を「愛国精神」に「浄化」させたいところだろう。だからこそ、公安局の公示の最初には、「社会主義の核心価値観を深く実践し」と記している。

 逆に、当局が最も恐れるのは、類似の凶悪事件が続発することだ。そのためか、公安は事件から一週間を経過した7月1日現在、犯人の人物像や犯行動機などを発表していない。発表したのは、上記のように「蘇州に来て間もない周という姓の52歳の男性」ということだけだ。

 犯人は、田舎で職がなくて蘇州に出てきたが、そこでも職にありつけず、むしゃくしゃして無差別の犯行に及んだ可能性がある。少なくとも、ゴリゴリの「反日人士」で、最初から日本人を標的にして犯行に及んだものではない気がする。

 さて、中国側の「もう一つの動き」は、日本とのこれ以上の関係悪化を懸念しているということだ。もっと端的に言えば、この凶悪事件を契機に、ますます日系企業が撤退したり、事業を縮小したり、中国への投資を控えたりすることを恐れているのだ。