ピクサーが「Coco」で直面した大炎上

「Coco」の舞台となったメキシコでは、11月1、2日に「死者の日」という祝祭が行われる。亡くなった家族を偲び、感謝し、そして生きている家族との絆を深めるという、日本のお盆にも似た伝統的な風習である。「Coco」は、この「死者の日」を題材として世界中で大ヒットした。

 ピクサーは「Coco」を制作するにあたり、メキシコへの現地調査に加えて、ラテン文化にルーツを持つ社内メンバー、マンガ家やメディア戦略家、30~40人のボランティア・アドバイザーからの視点などを積極的に取り入れた。

 また、映画の中で描かれる文化的要素を専門家の視点からチェックするための「Cultural Trust」チームを立ち上げ、複数の文化コンサルタントが脚本の細部からキャラクターデザインまで、すべてをチェックしたという。

 メキシコ固有の文化を扱うために、その歴史的背景やメキシコ人が「死者の日」に持つ想い、その社会的な意味などを深く理解することに努めたということだ。

 だが、実はピクサーも最初から万全を期していたわけではない。

「Coco」の原案タイトルとして、ピクサーは当初「Dia de los Muertos(死者の日)」というフレーズを考えていた。そして「Dia de los Muertos」をそのまま商標登録しようとしたところ、「メキシコの伝統的な祝日への法的所有権を得て商業化することは不適切であり、失礼だ」として大問題に発展。カルチャーチェックの必要性を痛感したピクサーはCultural Trustの導入を決めたという経緯があった。

 日本人は自国の文化などが海外で模倣されることに比較的寛容だが、特に植民地主義や白人至上主義について内省を繰り返してきた歴史のある欧米社会では、ある国の文化や風習を扱う際に、その文化に対する理解やリスペクトを持たず表面だけをなぞれば「文化の盗用(cultural appropriation)」と見なされて強い批判を浴びる。上記の「Coco」企画当初の大炎上もその例だ。

 こうしたリスクや批判に直面してきたからこそ、カルチャーチェックの仕組みや体制を抜本的に強化するに至ったというわけだ。

「死者の日」のパレードに参加する人々(写真:Ronen Tivony/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ/「ZUMA Press」)「死者の日」のパレードに参加する人々(写真:Ronen Tivony/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ/「ZUMA Press」)