音楽業界で顕在化しやすい「人権リスク」

 例えば、2023年12月、ダンスボーカルグループ「THE RAMPAGE」の新曲「SOLDIER LOVE」の振り付けや歌詞が「軍国主義や侵略を想起させる」と批判を浴びた。それを受けて、所属事務所であるLDH JAPANは歌詞と振り付けの一部を変更し、同曲の収録が予定されていたベストアルバムの発売延期を決めた。

 さらに遡れば、過去には人気アイドルグループ「欅坂46」のメンバーがハロウィンの仮装のために着た衣装がナチスの制服に酷似しており、国内外から批判を浴びて“炎上”するという事案もあった。

 制作側としては意図したものではなかったかもしれないが、国際社会から見て「人権や倫理の観点から、常識を疑うような表現」をしてしまうという問題はたびたび起きている。

 一方、米ウォルト・ディズニーや傘下のピクサー・アニメーション・スタジオなど、グローバル展開を前提としたコンテンツを長年にわたり制作している大企業は、こうした「表現を巡る人権リスク」の問題に敏感だ。

 両社は、自社が制作するコンテンツについて何重もの「カルチャーチェック」を実施する体制を整えている。

 ここで言うカルチャーチェックとは、作品で取り扱うテーマの文化的・歴史的な背景を深く理解するのはもちろんのこと、そうした背景を持つ社内外のメンバーを起用したり、その分野に詳しい専門家のチェックを受けたりする取り組みだ。

 例えば、2017年にピクサーが制作した「Coco(邦題:リメンバー・ミー)」がその好例だ。

ピクサーがカルチャーチェックを強化するきっかけになったアニメ「Coco」(写真:PIXAR ANIMATION STUDIOS/WALT DISNEY PICTURES/Album/共同通信イメージズ)ピクサーがカルチャーチェックを強化するきっかけになったアニメ「Coco」(写真:PIXAR ANIMATION STUDIOS/WALT DISNEY PICTURES/Album/共同通信イメージズ)
「Coco」というタイトルにもなったひいおばあちゃん「Coco」というタイトルにもなったひいおばあちゃん(写真:PIXAR ANIMATION STUDIOS/WALT DISNEY PICTURES/Album/共同通信イメージズ)
「死者の日」を描いた「Coco」の一場面「死者の日」を描いた「Coco」の一場面((写真:PIXAR ANIMATION STUDIOS/WALT DISNEY PICTURES/Album/共同通信イメージズ)