- バイデン政権は1974年通商法第301条に基づく対中関税を一部品目で引き上げると発表した。同政権はトランプ政権下に対中関税の大半を継続しているが、その中の一部をさらに引き上げた格好だ。
- 今回の措置は、11月の米大統領選に向けた労組へのアピールで、経済的な悪影響は当面、それほど大きくない。それを理解している中国も、今のところ抑制的な対応をとっている。
- だが、「タリフマン」を自称するトランプ氏も対中関税の引き上げを主張しており、選挙戦が激化する中で、さらなる関税引き上げもあり得る。安価な中国製品の流入を狙う他国も関税を上げる連鎖も懸念され、今後に注意を要する。
(菅原 淳一:オウルズコンサルティンググループ・シニアフェロー)
対中301条関税を一部品目で引き上げたバイデン政権
2024年5月14日、米バイデン政権は1974年通商法第301条に基づく対中関税を、一部品目で引き上げると発表した。同関税は、トランプ政権下の2018年7月より4次にわたり課せられたもので、発動当時の米国の対中輸入総額の約7割に当たる3700億ドル相当の品目が対象となった。
バイデン政権は同関税の大半を引き続き課していたが、法律に規定された発動4年後の見直し作業に2022年5月より着手していた。今回、米通商代表部(USTR)による同作業が終了し、大統領に報告及び勧告を行った。
USTRは、301条関税賦課の要因となった中国による強制的技術移転等の不公正な貿易政策・慣行が現在も続いており、米国の利益を守り、中国に政策・慣行の変更を促すために、同関税の賦課の継続を大統領に勧告した。
また、一部品目について、301条関税の引き上げを求めた。バイデン大統領はこれらの勧告を受け入れ、タイ通商代表にその実行を指示した。
労組票を巡る激しい争い
今回、関税引き上げの対象となった品目の多くは、「中国が支配(dominance)を狙う、あるいは、米国が近年重要な投資を行った」戦略分野であるとUSTRは報告書に記している。
対象となったのは、鉄鋼・アルミニウム、半導体、電気自動車(EV)、バッテリー・同部品、重要鉱物などである(図表)。
これらは米国の経済安全保障上も重要な戦略品目であるが、同時に米大統領選において労働組合の支持を得ることを狙って選ばれた品目でもある。