- 交渉が続いていた「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(IPEF)」は、11月16日の首脳会合をもって大きな区切りを迎えた。
- IPEFで交渉されていた4つの柱のうち、「サプライチェーン」については協定に署名、「クリーン経済」と「公正な経済」については交渉が実質妥結、残る「貿易」については継続交渉となった。
- 貿易が実質妥結に至らなかった部分に批判はあるが、4つの柱のうち3つまでが協定署名と妥結に至ったのは大きな成果。インド太平洋で生まれるビジネスチャンスをモノにするために、日本企業は早めに動き出すべきだ。
(菅原 淳一:オウルズコンサルティンググループ・プリンシパル)
インド太平洋の新たなルール形成
2023年11月16日、米サンフランシスコにおいて開催された首脳会合をもって、「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity:IPEF)の交渉は大きな区切りを迎えた。
今回の成果に関し、今後の実行への期待を込めてこれを評価する声もあれば、期待された成果に届かなかったことへの失望や、その意義や効果に疑問を投げかける声もある。
今回の成果は、IPEFで交渉されていた4つの柱のうち、「サプライチェーン」については協定に署名、「クリーン経済」と「公正な経済」については交渉が実質妥結、残る「貿易」については継続交渉となった。合わせて、IPEF全体の運営に関する協定(「IPEF協定」)の交渉も実質的に妥結した(図表)。
今回の成果を評価しない人々は、交渉を主導してきた米国の姿勢と、その結果として「貿易」交渉が実質妥結に至らなかったことを問題視している。
IPEFについては、その立ち上げ時から、関税の削減・撤廃といった市場開放が交渉対象となっていないことが強い批判を浴びていた。労働や環境、デジタル経済といった分野で、米国をはじめとする先進諸国が望む高い水準のルールに関する合意を新興国・途上国から得るには、その見返りとしての「実利」が不可欠であり、その最大のものが米国市場の開放である、というものだ。
市場開放を交渉対象に含まないことをアジアからの参加国の交渉担当者は、IPEFは「黄身のない目玉焼き」だと評した。これは、国内産業と雇用の保護のため、市場開放に消極的なバイデン政権の姿勢を反映したものである。