写真提供:共同通信社

 バブル崩壊(1990年代初め)、リーマンショック(2008年)、コロナショック(2020年)など経済的な危機に見舞われるたびに大きく成長してきたアイリスオーヤマ。その秘訣について、同社の大山健太郎会長は「ピンチをチャンスに変える経営」ではなく、「ピンチが必ずチャンスになる経営」の結果と説く。同氏の著書『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』(日経BP)では、「経常利益の50%を毎年投資に回す」「新製品比率50%に設定」といった独自のKPIとともに、会社を変える「15の選択」を提示している。本連載では、同書の内容の一部を抜粋・再編集して紹介する。

 第3回は、KPI(重要業績評価指標)の目的と選び方について解説する

<連載ラインアップ>
第1回 アイリスオーヤマの“憲法第1条”「利益を出せる仕組みこそ重要」はなぜ生まれたか
第2回 業界の定説に反したアイリスオーヤマの「農作業用の半透明タンク」が大ヒットした理由とは
■第3回 「経常利益の50%を毎年投資に回す」アイリスオーヤマの深謀遠慮(本稿)
■第4回 アイリスオーヤマの強さの源泉「プレゼン会議」はどのように行われているのか(7月10日公開)
■第5回 組織を腐らせる「ヌシ」を生まないために、アイリスオーヤマが構築した独自の仕組みとは(7月17日公開)
■第6回 ニューノーマル時代の勝ち残りに直結する、アイリスオーヤマの5つの企業理念とは(7月24日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

 アイリスでは、毎年、経常利益の50%を設備などの投資に回します。

 既存製品の利益率が下がり、一気に新しい市場に乗り換えようとして失敗するパターンはとても多い。経営環境の変化は時間をかけながら進みます。短期間で変化したように見える事象も、必ず以前からその兆しはあるものです。例えば、日本の少子高齢化は随分昔から予測されていました。この10年、20年で突然分かったことではありません。そうした変化に合わせ、あるいは変化を見越して、一歩ずつ新しい市場に動く。これが経営の基本です。

 しかし、この「一歩ずつ」が苦手な会社が多い。環境が変わってきても、何とかなるだろうと既存市場にしがみつき、いよいよまずいとなったときに、一か八かで新市場に参入する。体力のない企業が一か八かの勝負をして失敗したら、ひとたまりもありません。

 メディアはよくV字回復した会社を取り上げます。読み物としては楽しいかもしれませんが、現実に成功するのは、優れた指導者による卓越した戦略構築、そして社員と一体になった業務改革によって成し得るもので、V字回復は簡単ではありません。 

 だから、企業は常に経常利益の50%分を、新市場の開拓費用に振り向けたほうがいいと思います。50%なら仮に失敗しても、どのみち税金(法人税)として取られていたと諦めもつく。2000万円の利益が出たら1000万円を投資に回す。500万円の利益が出たら250万円を回す。常に経常利益の50%分の資金を使い、新市場に一歩一歩入っていくのです。

 そして入った市場が駄目だとなれば、早々に別の市場に照準を合わせる。じりじり動き、あるときふと後ろを振り返ったら「もう山の中腹まで登っていたのか」と気づくくらいでいい。一気に山頂に登ろうとするから、途中でこける。

 アイリスは株式上場をしていません。また、実質的に無借金経営です。それでも事業を多岐にわたり広げてこられたのは、一歩一歩、新しい市場に出てきたからです。投資にはリスクが伴いますが、そのリスクを経常利益の50%に抑えていれば大丈夫。目先の利益だけを欲し、少しのリスクすら取ろうとしないと、いつまでも市場縮小に苦しむことになります。

 結果として、売上高に占める新製品の研究開発費も一定水準を保っています。売上高40億円のときも、売上高400億円のときも、売上高4000億円のときも、売上高の4%です。会社が大きくなっても、開発の手を緩めていません。

 こうして軍資金を確保する一方、新製品比率の目標を立てるのです。