アイリスオーヤマ角田工場に搬入される、マスク生産のための設備
写真提供:共同通信社

 バブル崩壊(1990年代初め)、リーマンショック(2008年)、コロナショック(2020年)など経済的な危機に見舞われるたびに大きく成長してきたアイリスオーヤマ。その秘訣について、同社の大山健太郎会長は「ピンチをチャンスに変える経営」ではなく、「ピンチが必ずチャンスになる経営」の結果と説く。同氏の著書『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』(日経BP)では、「経常利益の50%を毎年投資に回す」「新製品比率50%に設定」といった独自のKPIとともに、会社を変える「15の選択」を提示している。本連載では、同書の内容の一部を抜粋・再編集して紹介する。

 第6回は、これからのニューノーマル時代を勝ち抜くための改革について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 アイリスオーヤマの“憲法第1条”「利益を出せる仕組みこそ重要」はなぜ生まれたか
第2回 業界の定説に反したアイリスオーヤマの「農作業用の半透明タンク」が大ヒットした理由とは
第3回 「経常利益の50%を毎年投資に回す」アイリスオーヤマの深謀遠慮
第4回 アイリスオーヤマの強さの源泉「プレゼン会議」はどのように行われているのか
第5回 組織を腐らせる「ヌシ」を生まないために、アイリスオーヤマが構築した独自の仕組みとは
■第6回 ニューノーマル時代の勝ち残りに直結する、アイリスオーヤマの5つの企業理念とは(本稿)


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経済のブロック化で進む分散戦略

 コロナショックにより、サプライチェーンはいよいよ見直しがかかっています。

 ただでさえ保護主義の台頭により経済のブロック化が進んでいたところに、コロナショックで国境がほぼ閉鎖されてしまった。

 東日本大震災のときにも、長いサプライチェーンの見直し議論が湧き上がりましたが、結局、目先のコスト低減を優先してしまった。

 しかし、新型コロナは世界規模で企業に影響を与えています。何十円かの部品が海外から調達できないために、何万円の製品を作ることができないという事態が起きました。部品メーカーの下請けの、さらに下請け、つまり孫請けが大切な部品生産を担っていたのが現実です。もはやサプライチェーンの再構築は待ったなしです。

 目先の効率で原材料メーカーや生産拠点を絞るのではなく、消費地に近い場所で分散生産し、配送することでビジネスチャンスを確実に捉えられます。今後は、そうした分散戦略の構築が当たり前になるでしょう。

 大きくいえば、中国を中心にしたブロック経済、欧州のブロック経済、そして米国のブロック経済。この三極に分かれます。日本は地政学的にも中国ブロックの中に入ることになる。

 完成品メーカーにとっては、部品メーカーの孫請けまではコントロールが利かない。海外まで連れて行くこともできない。ならば、ある程度リスクを取っても、部品生産に取り組むことが必要になります。一方、孫請けのほうも、後継者がいる会社は少ないので、廃業が進むでしょう。つまり一次、二次はつながりますが、三次以下は切れると思います。

 欧米のサプライチェーンを見ても、三次まではつながっていません。もちろん、専門技術を持った中小工場は欧米にもたくさんあります。しかし、歯車やばねはメーカーが作っています。日本は明治維新以降、産業振興で部品工場を育ててきました。国民の気質なのか下請けで我慢する人も多い。

 けれど、これからは一次部品メーカーや完成品メーカーにおける内製化が進み、ニューノーマル時代には、下請け企業はかなり廃業が進むと見ています。

 では、三次以下の下請け工場はどうすればいいか。アイリスオーヤマと同じように自社製品を作ることから始めてください。

 大山ブロー工業所は、最初に書いたように孫請けでした。そこから養殖用のブイを作り、脱下請けを図ったのです。その後のことは本書で見ていただいた通りです。私にできて、皆さんにできないわけがない。

 一次メーカー、完成品メーカーではロボットによる自動生産が加速するでしょう。その場合、専用機を購入していたら割に合わないかもしれない。いろいろな部品を作ることができるように、自動化ラインの専門家の確保と育成が喫緊の課題です。

 倉庫の自動化も避けては通れない。生産から出荷までをいかに自動化していくか。その仕組みを構築することが、ニューノーマル時代の経営の重要なテーマになります。