ⒸCNSA

 民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。

 第6回は、史上初めて「月の裏側」にある鉱物のサンプル採取・回収に成功した中国が進める、宇宙計画の狙いと最新動向に迫る。

<連載ラインアップ>
第1回 スペースXが開発した史上最大のロケット「スターシップ」は何がすごいのか
第2回 ボーイング傘下の国策ロケット企業を、なぜジェフ・ベゾスが狙うのか?

第3回 「SLIM」をはじめとする月面着陸ラッシュ、なぜ多くの国や企業が「水の氷」に注目するのか?
第4回 世界唯一で史上初、ispace社は民間資本だけで月面着陸にどう挑んだか?
第5回 新たな「宇宙開拓時代」の幕開け、イーロン・マスクが飛ばす超巨大宇宙船「スターシップ」の最終目的は?
■第6回 【ダイジェスト動画付き】史上初めて「月裏の砂」採取に成功、世界で最も順調に進む中国の宇宙計画の最前線(本稿)


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人類が初めて入手する2kgのサンプル

 6月25日、中国の無人探査機「嫦娥(じょうが)6号」が、月の裏側で採取した鉱物を地球に持ち帰ることに史上初めて成功した。日本時間の15時7分、試料の入ったカプセルが中国の内モンゴル自治区に着陸して回収された。嫦娥6号が着陸したアポロクレーターは地球から見えない月の裏側にあり、月の南極圏に位置する。

 2030年までにヒトを月面に送り込み、月面基地の建設を予定する中国は、その実現に向けて着実かつ急速に準備を進めている。なぜ中国は「月の裏側」を狙ったのか? 今後どのように月にアプローチしていくのか?

嫦娥6号が着陸する直前に撮影。月の裏側かつ南極エリアにあるアポロクレーターは起伏が多く、探査機が着陸する際の難易度は高い。ⒸCNSA

 嫦娥6号は5月3日、文昌宇宙発射センター(海南省)から打ち上げられ、その5日後に月周回軌道に入った。6月1日にはオービター(月軌道周回機)から切り離されたランダー(着陸機)がアポロクレーターへの着陸に成功。「月の裏側」に着陸したのは中国の嫦娥4号(2019年)に次いで2機目となる。

 嫦娥6号のランダーは、ドリルとシャベルでレゴリス(砂)を採取し、試験管チューブに入れ、着陸機の上部に搭載されたアセンダー(上昇機)に格納した。採取したサンプルは1935.3gと公表された。

 6月3日、エンジンが点火されたアセンダーが上昇し、月周回軌道上でオービターとドッキング。試料を受け取ったオービターからは、試料を載せたリターナー(帰還機)だけが切り離されて月周回軌道を離脱し、地球への帰路についた。