無資格の歯石除去は脱法から違法へ

 1月15日に農水省が「小動物獣医療等に関するよくある質問」として3つの課題について回答を示したのは、こうした背景があったからだ。

 3つのうち、一つはトリミングサロンでの治療を目的とする薬用シャンプーについてであり、獣医師の指導に従って使うように求めるものだが、残り2つは歯石除去に関するものだった。歯石除去についての2つの質問と回答は次の通りだ。

問2:犬の歯石が気になります。どうしたらよいですか?
歯石は歯磨きで取り除くことはできません。獣医師にご相談ください。

問3:歯石除去に資格が必要ですか?
飼育動物の診療の業務は、獣医師でなければできません。
スケーラーを用いる歯石除去は、獣医師の獣医学的判断及び技術をもって行う診療行為です。歯石が気になる場合は、獣医師にご相談ください。
なお、歯垢を除去する目的でブラシやガーゼ等を用いる歯磨きは一般的に診療行為ではありませんが、口腔内に傷がある等の場合は獣医師にご相談ください。

農林水産省が24年1月15日に質問への回答という形で見解を示した農林水産省が24年1月15日に質問への回答という形で見解を示した
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 このような見解が示された背景として、農水省は「一般の人たちからの問い合わせがあり掲載した」と説明するが、業界には、農水省に問い合わせがあったことに加え、警察が動いたことが影響した可能性があるという指摘もある。

 一方で京都府警によると、農水省の見解が示されたことで、警察も摘発に動きやすくなったという。警察と農水省が連携する形で、無資格の歯石除去の違法性が明らかにされたとも言える。

 もう一つ、警察が動いたポイントは、歯の処置にスケーラーが使われたことがあった。

 警察では、ドッグカフェの公開しているSNSで歯の処置にスケーラーが使われたことを確認し、摘発に動いたという。ブラシで歯磨きをしている範囲であれば問題ないが、硬いスケーラーを使うことで口の中を傷つける危険性が高まるからだ。

 今後、無資格の者がスケーラーを使って歯石除去を行った場合、獣医師法違反とみなされる可能性が高い。

 また、民間資格も実質的に違法な歯石除去を行う店舗が認定されたかのような印象操作に使われている側面がある。先ほども触れたが、ウェブで検索すると、こうした民間資格を持つ人物が犬の歯磨きや歯石除去をうたい、グレーな店舗を運営しているケースが多く見受けられる。民間資格を持つ無資格者が健康被害を引き起こすこともあり得る。

 犬の「脱法歯石除去」は今後、明らかな法律違反に手を染める「違法歯石除去」として摘発されることになるだろう。

 今回の件は、以下の3つのポイントでまとめられる。

○無資格の歯石除去、ポイント1
 京都府警察が無資格で歯石除去を行っていた人物を摘発した。無資格者が獣医師資格を必要とする獣医療行為を手掛けていたことが問題視された。

○無資格の歯石除去、ポイント2
 農林水産省が「歯石除去は獣医師が行う」という見解を初めて示した。この公式見解が、歯石除去に無資格者が参入することの違法性を明確にした。

○無資格の歯石除去、ポイント3
 歯石除去にスケーラーを使ったことが摘発の理由の一つとなった。硬いスケーラーによる処置は口内を傷つける危険があり、健康被害につながるとみなされた。

 不適切なペットの歯石除去は健康被害につながる場合も多い。飼い主も注意が必要だ。また、無資格とは別の問題として無麻酔の課題も、動物病院も含め解決していく必要性もありそうだ。

【参考文献】
無麻酔下での歯石除去の危険性、歯科処置の危険性
小動物獣医療等に関するよくある質問

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師

 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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