横行する無意味な民間資格

 先に紹介したように歯周病が問題になりやすいのは小型犬だ。小さいあごのために歯と歯の間が狭く重なることもある。歯の間に異物が残りやすく、カスがたまり、細菌が増えやすい。歯石も付着しやすくなる。藤田氏は「小型犬は1歳未満でほぼ100%が歯周病になっており、4頭に1頭は歯がもろくなっている」という。

 藤田氏によると、麻酔は主に揮発性の麻酔薬を吸わせるタイプで、おとなしくさせる目的で使用される。そうした麻酔薬は吸入を止めると速やかに効果が途切れるため、安全だというメリットがある。「麻酔が怖いという声もあるが、処置の前に検査すれば、安全に行うことができる」(藤田氏)。

 先のアンケートでは、無麻酔での歯石除去がどこで実施されているかについても複数回答で尋ねた。最も多かったのはトリミングショップで79%。続いて動物病院が59%、ペットショップが48%、ホームセンター、イベント会場、ドッグカフェと続いた。

日本小動物歯科研究会によるアンケート調査より。トリミングショップやペットショップなど無資格施設で無麻酔の歯石除去が行われている。一方、動物病院でも無麻酔での施術が実施されており、これも課題となっている日本小動物歯科研究会によるアンケート調査より。トリミングショップやペットショップなど無資格施設で無麻酔の歯石除去が行われている。一方、動物病院でも無麻酔での施術が実施されており、これも課題となっている

 藤田氏は、「無麻酔で歯石除去を行っている獣医師も存在している。今回の京都府警の書類送検をきっかけに麻酔の重要性も認識されることを期待する」という。

 冒頭の事件に戻ると、京都府警が摘発に至った理由には大きく3つのポイントがある。

 まず、既に示したように、歯石除去を手掛けていた人物が無資格であったこと。

 国内には、「日本ドッグデンタルハイジニスト協会」「日本ドッグデンタルエステティック協会」といった民間資格を出す組織があり、「ドッグデンタルハイジニスト」「犬の歯磨きコンシェルジュ」「犬の口腔ケア専門士」といった民間資格があるが、これらの民間資格があっても法律的な意味はない。無資格で歯石除去を行っているところはこうした民間資格を持っていることも少なくないが、獣医師資格を持っていない場合には無資格と言える。

 その上で、摘発に至った2つ目のポイントは、この1月に農林水産省が「歯石除去は獣医師が行う」と初めて見解を示したことである。

 京都府警によると、書類送検されたドッグカフェについてはもともと京都府による調査があったほか、警察の捜査や農水省への問い合わせもあったようだ。