台湾で民進党の頼清徳が新総統に就任して3週間が経過した。前回、「ねじれ国会と与野党の対立激化」、「若者が第3勢力に熱狂」、「内なる蔡英文と蕭美琴の影」を「3つの内憂」として指摘した。本稿では、台湾を取り巻く日米中の動向や影響を「3つの外患」として分析する。頼清徳をめぐる「内憂外患」は深刻さを増している。(敬称略)
【前編から読む】
台湾・頼清徳総統に「内なる包囲網」も、中国の軍事圧力だけではない頭痛のタネ
(河崎 眞澄:東京国際大学国際関係学部教授)
トランプは台湾への武器供与に積極姿勢だが…
「3つの外患」その1は、安全保障の「守り神」である米国の“もしトラ”もささやかれる大統領選でどういう結論を下すかだ。
台湾海峡で中国の軍事圧力が高まる中、沖縄やフィリピン、グアムなどに軍事拠点を展開する米国のプレゼンスは、台湾にとり生死を分ける重大な意味を持つ。安全保障の守り神である米国で、11月5日に投開票される大統領選挙まで、5カ月を切った。
5月30日、前大統領のトランプが不正な会計処理による罪に問われたニューヨーク州での裁判で、12人の陪審員は34すべての罪状について有罪評決を下した。刑事裁判で大統領経験者が有罪となったのは初めて。トランプには逆風が吹いている。
だが、米政治ニュースサイト、リアル・クリア・ポリティクスの世論調査では、共和党トランプと、民主党バイデンの支持率に変化はない。評決の翌日、5月31日にバイデン支持が46.4%だったのに対し、トランプ支持はなお47.2%と0.8ポイント上回っていた。
頼清徳も、米政財界と太いパイプを作った副総統の蕭美琴も、軍事予算の縮小を訴えながら、台湾への武器供与には積極的なトランプの動向が気がかりだ。
かつて「世界の警察官」を自任した米国だが、米国の国益こそ最優先との政策が強まれば、米中関係の展開次第で、台湾との関係は容易に揺れ動く。ただし、台湾への武器供与は対中牽制になる上、米国の軍需産業に多額の収益をもたらし、同時に多くの雇用も創出するメリットがある。こうした中でトランプが返り咲けば、米中関係の駒のひとつとして、台湾との関係が利用されるのではないか、との懸念が台湾側にはくすぶる。
もしもトランプが返り咲いたら、との“もしトラ”の影響について、まだ見極めきれていない。
現大統領のバイデンは米誌タイムの取材で、台湾海峡での軍事紛争に米軍出動の可能性を示唆した。だが次男のハンターが中国から巨額の利益供与を受けており、民主党そのものにも中国共産党からさまざまなルートで力が及んでいる、との観測もある。
いずれにせよ懸念されるのは米国世論の極端な二分だ。