- ガソリン需要が盛り上がるはずの夏場を前に、原油価格に下落圧力が強まっている。
- 米国の物価高や中国の不動産不況、3期目に入ったインド・モディ政権の経済政策への懸念など、需要の低迷が予測されるからだ。
- 今後のトレンドを読むうえでカギを握るのは供給サイドの動向だ。OPECプラスが合意した自主減産幅の縮小の行方や、米国とサウジアラビアという二大産油国の事情を分析する。(JBpress)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
6月12日の米WTI原油先物価格(原油価格)は前日比0.60ドル(0.8%)高の1バレル=78.50ドルで取引を終了した。5月の米国消費者物価指数(CPI)の上昇率が市場予想を下回り、米連邦準備理事会(FRB)は7会合連続で政策金利を据え置いたものの、年内の利下げが確実になったとの期待から原油価格に「買い」が入った。
6月2日のOPECプラス(OPEC=石油輸出国機構とロシアなどの大産油国で構成)閣僚級会合の合意を受けて、原油価格は4日に一時、約4カ月ぶりの安値(72.48ドル)となった。これまで続けてきた自主減産の幅を10月以降、縮小することが決まったためだ。
だが、その後、反転、再び78ドル台に回復している。相場のトレンドを変えたのは、OPECプラスの担当閣僚の発言だった。
6日にロシアのサンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムに参加したサウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相は「2日に合意された生産量の変更(自主減産幅の縮小)は必要があれば一時停止または撤回する可能性がある」と述べた。ロシアのノバク副首相も「市場を支えるために必要に応じて合意を調整する可能性がある」と追随する発言をした。
これらの発言により市場心理は改善し原油価格は回復した。ただ、OPECプラスは10月以降の自主減産幅の縮小に足かせをはめられたかもしれない。合意の背景にあった、増産をしたいUAE(アラブ首長国連邦)との対立回避という狙いがムダになる可能性もあり、「後顧の憂い」が残った格好だ。
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ゴールドマン・サックスが9日、「ジェット燃料の回復を主因に原油需要の伸びは堅調」との見解を示したことも追い風となった。
国際航空運送協会(IATA)は「今年の世界の旅客数はコロナ前を上回り、記録的な水準になる」と見込んでいる。
原油市場は「OPECプラス・ショック」を吸収した形だが、筆者は「今後の原油価格は世界の需要動向に左右されるのではないか」と考えている。