長期的には米国・サウジの原油供給に制約も

 米国の原油生産量はこのところ停滞気味だ。

 12週間にわたって過去最高水準(日量1330万バレル)を下回っており、石油掘削装置(リグ)の稼働数も減少傾向にある。米国のシェール産業は成熟期に入ったとされており、昨年のように生産量が急増する可能性は低いと言わざるを得ない。

 原油市場の最後の砦であるサウジアラビアの内情も気になるところだ。

 国際通貨基金(IMF)の分析によれば、サウジアラビアの4月の財政均衡原油価格は昨年10月時点の1バレル=79.7ドルから96.2ドルに急上昇している。

 減産を続けていても財政赤字は増すばかり。サウジアラビア政府にとっての頼みの綱は国営石油企業サウジアラムコだ。6月に入り、同社の株式の追加売却を行い、112億ドル超の資金を確保した。

 問題なのは、政府から収益を上回る水準の配当を求められているため、サウジアラムコは生産能力の維持のために十分な資金を確保できず、今後の操業に支障が生じる懸念が生じていることだ。

 IEAが思うほど、世界の原油供給体制は万全ではないのだ。過去の歴史を振り返れば、世界の原油市場は10年単位で激変している。短期的には需要の伸び悩みにより原油価格が低迷したとしても、中長期的には米国とサウジアラビアという二大産油国で供給に制約が生じ、原油価格が再び高騰する可能性は排除できないのではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。