「桃花台ニュータウン」の新交通システムはなぜ廃止になったのか

 その一例とも言えるのが、名古屋市から約16kmの位置にある「桃花台ニュータウン(愛知県小牧市)」だろう。

 桃花台ニュータウンは、住民の多くが名古屋市中心部への通勤動線を必要としていたため、地域住民の足として新交通と呼ばれる交通システムを採用した。1980年前後はモノレールや新交通のブームが起こり、各地の自治体は新しい公共交通に飛びついた。

 桃花台ニュータウンが1991年に導入したのはピーチライナーと呼ばれる新交通システムだ。計画人口が4万人と少なかったことから、通常の鉄道ではオーバースペックになってしまい、莫大な建設費が無駄になってしまう。そのため建設費が安く抑えられる新交通は最適だった。

ピーチライナー(2005年12月撮影、写真:共同通信社)

 だが、ピーチライナーは小牧市が出資した第三セクターであることが一因で、名古屋市まで線路が到達しておらず、その動線は住民の生活実態とは大きくかけ離れていた。

 ニュータウン内の桃花台東駅と小牧駅を結んだが、名古屋市中心部へと移動するには、小牧駅からは名鉄小牧線に乗り換えて上飯田駅まで行き、そこから名古屋市営地下鉄上飯田線へと乗り継ぎ、平安通駅から名城線に乗り換えなければならないのだ。

 しかも上飯田線が開業したのは2003年で、それまで上飯田駅─平安通駅間の約0.8kmは徒歩で移動するのが一般的だった。名古屋駅近隣に勤めるサラリーマンは、さらに栄駅で東山線への乗り換えが発生する。

 これほど多くの手間と時間を要する桃花台ニュータウンに転居するファミリー層は少なく、1971年当初に策定された計画人口の5万4000人には遠く及ばなかった。その後も計画人口を下方修正し続け、ピーチライナー開業前の1983年には4万人まで下げていたが、3万人に達することさえなかった。

 前提としていた人口に到達しなければ、ピーチライナーの利用者も想定を下回るのは当然だ。上飯田線の開業で徒歩連絡が解消されても、ピーチライナーの利用者数は振るわなかった。

 なぜなら新住民たちもピーチライナーを使用せずに、バスで高蔵寺駅もしくは春日井駅へと出て、そこから中央本線へと乗り継いでいたからだ。バスと中央本線を利用する方が所要時間は短く、手間も少ないから当然の選択だろう。

 そして、住民からも忌避されたピーチライナーは不採算路線となり、存在意義を失って2006年に廃止。わずか15年という短命だった。

廃止後も撤去費用を捻出できないことを理由に残されていたピーチライナーのループ線(2023年4月、筆者撮影)
ピーチライナーの桃花台センター駅。廃止後も長らく放置されていた(2023年4月、筆者撮影)

 名古屋市中心部までアクセスできないピーチライナーに対して、前述の北急は江坂駅で御堂筋線へと乗り入れて大阪市中心部まで一本でアクセスできる。通勤の足として沿線住民に頼りにされる存在となっており、取り巻く鉄道環境は桃花台と千里では大きく異なる。

北大阪急行電鉄は御堂筋線と直通運転するので、御堂筋線の電車も走る(2024年3月、筆者撮影)

 もちろん、千里ニュータウンも人口減少・高齢化の波が押し寄せていることは否めず、沿線には古びた団地なども見受けられる。しかし、街に限界ニュータウンのような悲壮感は漂っていない。

 また、千里ニュータウンは古びた団地を段階的に建て替えることで、新住民の流入を促している。ニュータウン内にはタワーマンションも見受けられ、大阪市中心部と鉄道で直結しているという最大限の強みを発揮している。

 千里ニュータウンはあくまで一例に過ぎないが、他では減築することで空き家・空室を減らし、治安を向上させているニュータウンもある。また高層の建物を低層にすることで日照を確保するといった逆手法で再生を試みるケースもある。

 いずれにしても、ニュータウンにおいて鉄道が重要な役割を果たしていることは確かだ。今後、行政と住民が現状の問題意識を共有し、公共交通の見直しをはじめとするまちづくりの再整備に着手することが、ニュータウン復活の第一歩となるだろう。

【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。