時給20ドルへの引き上げを祝う集会を開く米カリフォルニア州のファストフード従業員(写真:ロイター/アフロ)
  • コロナ禍で米国の雇用環境は大きく変化、「売り手市場」を背景に賃金上昇が続く。
  • カリフォルニア州ではファストフードチェーン従業員の最低賃金が20ドル(3000円超)に達した。
  • 働き手には朗報だが、政治家の「人気取り」による人工的な引き上げは、悪影響をもたらす懸念もある。

(水野 亮:米Teruko Weinberg エグゼクティブリサーチャー)

カリフォルニア州の規定より4ドル高い最低時給

 米国では賃金の上昇が続いている。

 カリフォルニア州政府は2024年4月1日、米国内で60店以上を展開するファストフードチェーンの従業員について、最低賃金を時給20ドルに引き上げた。同州では、労働組合の政治的影響力が強い特定産業には、一般的な最低賃金を上回る時給が設定されており、州が定めた2024年の最低時給16ドルを4ドルも上回る水準となった。

 時給20ドルは、現在の為替レート(1ドル=156円)で換算すると、日本円で時給3000円を軽く超える。円安ドル高が進んだとはいえ、日本視点では、米国の賃金上昇のすさまじさを感じさせるエピソードだろう。

 新型コロナ禍以降、米国の雇用環境は大きく変化した。ロックダウン措置による一時的な事務所や店舗の閉鎖により一時的に解雇された従業員は、コロナ禍が明けても元の職場になかなか戻らない。リモートワークの導入で「ライフワークバランス」が浸透し、職場から遠い場所に引っ越した従業員は、オフィスワークに戻れないという現象が起こった。

 2021年から2022年にかけて、求人数が雇用者数を大きく上回り、空前の「売り手市場」が形成された。手厚い待遇を提供しなければ企業は従業員を集めることができなくなった。こうして賃金は上昇していった。

 米労働統計局のデータによると、ロックダウン措置直前の2020年3月時点における米国民間部門の報酬額は前年同期比で2.8%増程度であったが、その後上昇を続け、2022年6月時点では5.5%増を記録した。

 筆者が住むカリフォルニア州ロサンゼルス都市圏の報酬額は米国全体より高い上昇を記録している。