トランプ氏は2016年大統領選の「デジャブ」のような公約を掲げる(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(水野 亮:米Teruko Weinberg エグゼクティブリサーチャー)

イデオロギー、感情論が先行した報道も

 日本では、トランプ氏の米国大統領への返り咲きが現実味を帯びるにつれて、「もしトラ」(もしもトランプ氏が大統領に返り咲いたら)から、最近では「ほぼトラ」(ほぼトランプ氏で決まり)がささやかれるようになった。

 トランプ氏が現職のバイデン大統領を支持率で上回るニュースをよく目にするが、足許では世論調査によってはバイデン優位という報道もあり、実際はほぼ互角な状況ともいえる。

 最後まで接戦が予想される2024年大統領選を最終的にトランプ氏が制した場合、新政権の政策はどの方向へと向かうのか。米国内ではリベラル系のメディアを中心に「トランプ脅威論」が連日のように取り沙汰されているが、米国に長く住んでいる筆者には、イデオロギーや感情論が先行し、いささか過剰に煽るような内容のニュースも少なくないように思える。

 たしかに、2024年1月公表の「米国人労働者にはトランプ大統領ほど良き友人はいない(American Workers Have No Better Friend Than President Trump)」と題するトランプ陣営の選挙公約では、「通商・移民・環境」が柱となっており、まるで2016年大統領選の「デジャブ」のようだ。中には当時よりも過激で、左派の不安を煽るようなものも見られる。

 ここはいったん落ち着き、筆者の知識の範囲でトランプ陣営の主な公約の実現可能性について以下のとおり分析を試みたい。

対中貿易政策には新たな動きを反映

 まず、トランプ政策の柱ともいえる貿易政策に関する公約は以下の3つである。

①中国の最恵国待遇(MFN)を撤回し、中国やその他の「貿易濫用国」に極度な罰則を科す。
②米国民に課せられている税金を減らす一方、輸入製品に対する関税を引き上げる。
③米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)で米国自動車産業労働者をグローバリストの攻撃から守る成功の上を築く。

 貿易政策は、全体的には2016年大統領選時を想起させる内容となっている。同時に、昨今連邦議会の対中強硬派議員らも提唱している、中国のMFNの撤回や中国産電動自動車(EV)の米国への流入に対する懸念など、対中政策の新しい動きも取り入れている。

 では①から③まで順番に見ていこう。