トランプ政権誕生に日本はびくびくしているようだが・・・(写真は2月10日、写真:AP/アフロ)

「もしトラ」に対米不安を凝縮させた日本

 11月の米大統領選挙は、現職のジョー・バイデン大統領と復権を目指す前大統領のドナルド・トランプ氏の一騎打ちの流れが固まった。

 現段階では、両者ほぼ互角との予測が伝えられ、どちらが勝利するのか全く予断を許さない情勢である。

 AP=共同通信が伝えるところによると、ワシントン・ポスト紙電子版は4月6日、「Make America Great Again(MAGA)」を標語とする米国第一主義のトランプ前大統領が返り咲く可能性に世界が注目する中、日本では「もしトラ」が流行語となり、その言葉にトランプ氏復権への不安がうまく凝縮されているとする記事を掲載した。

 米国が行き過ぎた自国第一主義に傾けば日米同盟が不確実・不安定となり、「異例」「非伝統的」「予測不可能」など際立った型破りな姿勢や攻撃的な言動によって外交や安全保障・防衛、経済などの分野で何をするか分からないといった心配や猜疑心に駆られるのもやむを得ないところである。

 では、もし、トランプ氏が再登場する「もしトラ」が現実になれば、米国のインド太平洋地域への取組みや日米関係に大きな変化があるのであろうか。

 筆者の答えは、安全保障・防衛に関する限り、基本的にノーである。

 改めて言うまでもなく、21世紀におけるグローバルな安全保障の最大の課題は、米国と中国の覇権争いであり、近年、それに伴う対立が激しさを増している。

 米中関係の経緯を辿れば、この対立はトランプ前大統領によって決定的となったものである。

 トランプ氏が大統領になれば、同氏のインド太平洋政策は、引き続き中国を米国にとっての最大の敵とみなすのは必定である。

 そのため、軍事的抑止力を強化するとともに、同盟国の日本やオーストラリア、そしてインドなどの友好国との関係強化が不可欠であるからだ。

 この見通しは、次に列挙する4つの論拠によって後押しされる。

 その第1は、米国の大戦略/国家戦略は、「ユーラシアに圧倒的な力を持つ地域覇権国の出現を阻止」し、世界における米国の利益を擁護・促進することにある。

 そのため、米国に代わって世界的覇権を追求する中国に強い態度で臨むことは、米議会で上下両院および党派を超えた既定路線となっている。

 政権交代があったとしても、その政策が基本的に変更されることはない。

 第2は、共和党のトランプ政権は、同じ共和党のニクソン政権から始まった対中関与政策を「失敗であった」と認め、中国との本格的かつ全面的な対決に踏み切った。

 共和党が主導した対中関与政策を同党の大統領が「失敗であった」と認めることは、大きな勇気と決断を伴うものである。

 それは、米国(共和党政権)の中国との対立が後戻りできない地点(Point of No Return)を超えたことを示す明確な意思表明である。

 第3は、トランプ政権下でインド太平洋戦略としての「米国のインド太平洋における戦略的フレームワーク」が策定された。

 本戦略は、次のバイデン政権に引き継いでもらうため、トランプ大統領の退任直前に機密扱いを解除して公表され、バイデン政権は基本的に同戦略を踏襲している。

 第4は、米軍は同上戦略に基づいた作戦構想を練り、対中に重心をシフトし、インド太平洋を最優先した態勢見直しを行い、日本をはじめとする同盟国・友好国との共同訓練・演習などを通じて共同の抑止力・対処力の強化を積極的に推進している。

 以上が、「もしトラ」でも米国のインド太平洋や日本への取組みは基本的に変わらないとする筆者の主要な論拠であり、その要点について少し説明を加えることとする。