- 移民問題が米国政治の大きな争点になっている。国境に接し、多数の不法移民が押し寄せる州が、移民に寛容な都市部を持つ州(聖域都市)に対し不満を募らせている。
- テキサス州では、移民をバスに乗せ、ニューヨークなどに送る「ローンスター・オペレーション」と名付けた作戦を続けてきたほどだ。
- 移民政策に対する不満の矛先は、迷走するバイデン政権に向かっており、次期大統領選の有力候補とされるトランプ氏に有利に働きつつある。
(水野 亮:米Teruko Weinberg エグゼクティブリサーチャー)
業を煮やしたテキサス州のアボット知事
次期大統領選まで1年を切った米国では、ここへきて移民問題の注目度が高まっている。「タイトル42」が2023年5月に失効して以降、米国南部の国境を越える不法移民*1が増えているからだ。タイトル42とは、トランプ前政権が新型コロナウイルス対策を理由に導入した不法移民の入国制限措置だ。
*1:中南米諸国出身の避難民が多い。合法的な身分が与えられるまでは避難民は不法移民として扱われるため、本稿では不法移民と呼ぶ。
タイトル42の失効以降、ニューヨークやシカゴ、ロサンゼルスなどの街角に溢れかえる不法移民のニュースが連日報じられている。背景には、こうした移民に関する規制が緩い都市と国境を接する州との対立がある。
例えば、メキシコとの国境沿いのテキサス州では、不法移民がそのままバスに乗せられて、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスといった、いわゆる「サンクチュアリーシティー(聖域都市)」に運ばれている*2。
*2:https://gov.texas.gov/news/post/operation-lone-star-sends-over-500-migrant-buses-to-sanctuary-cities
サンクチュアリーシティーとは、厳密には連邦移民局による不法移民の強制出国や起訴に協力しない都市を意味するが、「不法移民を保護する都市」と一般的には捉えられている。
この輸送活動を「オペレーション・ローンスター(「ローンスター」はテキサス州のニックネーム)」と呼ぶテキサス州のグレグ・アボット知事は、2022年のクリスマスイブに移民を乗せたバスをワシントンDCにあるカマラ・ハリス副大統領の公邸前に送りつけた*3ことで話題となった。
一見すると、アボット州知事の行為は非人道的と思われるかもしれない。彼の極めて保守的な政策を非難する民主党員は後を絶たない。