大谷翔平大谷翔平(写真:アフロ)

 いつの時代もプロ野球ファンを魅了してやまないホームランバッター。しかもこれまで遠い存在だったメジャーリーグ(MLB)の舞台で「本塁打王」を獲得した大谷翔平は、名実ともにMLBの頂点に立ち、現在もホームランを量産している。その偉業の対価は「10年7億ドル」という巨額の年俸にも表れている。これまでアメリカン・ドリームをつかんだMLBの名選手たちは、一体どれだけの報酬を手にしてきたのだろうか。

(*)本稿は『大谷翔平とホームラン』(AKI猪瀬著/KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。

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大谷はすでに人種の壁を軽々と飛び越えた存在に

 25年以上、MLBに関わる仕事をしてきたが、「日本人選手がホームラン王を獲得する」とは、夢にも思っていなかった。

 2001年にイチローと新庄剛志がMLBデビューを果たして、日本人野手の歴史がスタート。以降、次の通り総勢19名の野手(大谷翔平を含む)が海を渡っている。

 2001年 イチロー、新庄剛志
 2002年 田口壮
 2003年 松井秀喜
 2004年 松井稼頭央
 2005年 井口資仁、中村紀洋
 2006年 城島健司
 2007年 岩村明憲
 2008年 福留孝介
 2011年 西岡剛
 2012年 青木宣親、川﨑宗則
 2013年 田中賢介
 2018年 大谷翔平
 2020年 秋山翔吾、筒香嘉智
 2022年 鈴木誠也
 2023年 吉田正尚

 ホームランに関しては、2002年に読売ジャイアンツでシーズン50本塁打を記録し、翌2003年にニューヨーク・ヤンキースに入団した松井秀喜に期待が高まったが、2004年に記録した31本塁打が自己最多となり、いつしか「日本人選手がホームラン王を獲得する」可能性や願望については、語られることすらなくなっていった。

 松井はデビューから3年連続を含む通算4度、シーズン100打点以上を記録する大活躍を見せ、MLB通算175本塁打は日本人最多記録として現在も残っている。ちなみに大谷の2023年終了時点の通算本塁打数は171本。日本人選手で通算本塁打が100本を超えているのは松井、大谷に加えて通算117本塁打を記録したイチローの3人しかいない。

 大谷は2018年のデビューイヤーに22本塁打を記録したが、この時点でも「日本人選手がホームラン王を獲得する」日が来るとは、想像すらしていなかった。2021年に46本塁打を記録したのを目撃して、「もしかすると」という思いは過ったが、それでも断言はできなかった。MLBでホームラン王を獲ることはそれくらい難しい。現に2022年の大谷は、大幅に本数を減らす34本塁打でシーズンを終えている。

 だが2023年シーズン、44本塁打を放った大谷がついにホームラン王を獲得した。

 シーズンを通して健康体を維持し、二刀流を続けることができれば、毎シーズンMVP争いの主役になることは想像の範疇だったが、まさか「日本人選手がホームラン王を獲得する」とは。数年前まで本当に考えられないことだった。しかし、プロ野球時代から周囲の想像を軽々と超え、野球界の常識を覆してきた大谷にしてみたら、今回のホームラン王獲得も、野球人生の中の通過点でしかないのかもしれない。

大谷翔平ドジャースでもホームランを量産する大谷翔平(写真:AP/アフロ)

 さらに凄みを増した2023年の二刀流。ベーブ・ルースでさえ成し遂げていない2年連続の2桁勝利2桁本塁打を筆頭に、様々な偉大な記録を樹立して、史上初となる満票でのMVP複数回受賞を果たした。

「MLBでこれまで活躍された偉大な日本人選手たちのことを考えると大変恐縮であり、光栄なことです」

 日本人選手、そして、アジア人として史上初となる本塁打王を獲得した大谷翔平の言葉である。ちなみに日本国内の報道では、「日本人初」「アジア人初」などのタイトルが付けられて、今回の本塁打王獲得の快挙が伝えられたが、アメリカ国内では「日本人初」などのタイトルは、ほとんど付けられることはなかった。なぜならば、大谷はすでに人種の壁を軽々と飛び越えた存在になっているからである。