「アラブの春」の再来を警戒
イスラム抵抗運動とは、ガザ地区の子供や女性に対する虐殺に復讐を誓う「草の根」レベルの武装蜂起のことだ。ハマスがその代表的な存在で、「ハマス」は「イスラム抵抗運動」を意味するアラビア語の頭文字をとったもので、「情熱」をという意味も持つという。
そのイスラム抵抗運動が、パレスチナ以外でも活発化しているのだ。イラクでは昨年10月以降、「イスラム抵抗運動」と称する組織がイスラエルや駐留米軍に対して攻撃を繰り返しているが、バーレーンでも5月2日、「イスラム抵抗運動」と称する組織が「イスラエルに無人機(ドローン)攻撃を行った」との声明を出した。
バーレーンは2011年初頭に「アラブの春」に触発された民主化運動が起き、その波及を恐れたサウジアラビアなどが軍を派遣して鎮圧したという経緯がある。
サウジアラビア政府もこの動きに敏感になっている。イスラエルとハマスの戦争に関するSNSの投稿をめぐり、市民を逮捕するなど締め付けを強めている。イスラエルとの国交正常化に反発する「イスラム抵抗運動」の声を事前に摘み取り、「十数年前のアラブの春のような事態はなんとしても阻止したい」との思惑があると言われている*2。
*2:サウジ、ガザ巡るネット投稿取り締り強める-イスラエルとの関係視野(5月2日付、ブルームバーグ)
「湾岸産油国で新たな『アラブの春』が起きる」と断言するつもりはない。だが、停戦が実現せずにガザでの悲劇が続く限り、中東地域の民衆の怒りは高まるばかりだ。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。