財政政策が大きく異なる連立候補の2つの野党

<「ポスト岸田」の行方は?>
 自民党内で、誰が「ポスト岸田」となるであろうか。派閥がほぼ解消されたため、派閥力学から予想することが難しくなった。ただ、国政選挙の「顔」としての役割を果たすため、ある程度の人気や知名度が求められる点に変わりはない。

 世論調査では、石破元幹事長や小泉元環境相、河野デジタル相の人気が以前から高い。また、茂木幹事長や林官房長官も候補に取り上げられるケースも多い。最近の調査では、上川外相や高市経済安保相が浮上している。

 昨年12月16日の拙稿「絞られる次期首相の条件、「ポスト岸田」の一番手は初の女性首相か」でも指摘したように、自民党が直面する政治資金問題を打破するため、クリーンもしくは新鮮なイメージを有する新総裁が求められやすい。女性2人は有力候補の一角に浮上しているだろう。

 有力候補の中には、例えば上川外相のように、経済閣僚の経験がなく、その政策スタンスが不透明な候補もいる。総裁選出馬の際は、掲げる公約などが注目される。

<連立政権組み替えの候補は?>
 総裁公選の前もしくは後の衆院選において、過半数割れとなるなど与党が敗北すれば、時の首相は退陣し、かつ連立政権の組み替えが生じる。

 国民民主党は、しばしば政府予算案に賛成するなど、与党に協力的であり、連立相手の有力候補だ。

 日本維新の会も連立政権入りの可能性がある。馬場代表は、松井前代表と同様、野党第一党を目指して立憲民主党と対決する姿勢を堅持しているが、松井氏と異なり、与党との連立を否定していない。

<経済政策の方向性は?>
 誰が新首相になっても、あるいは連立政権の組み替えが生じても、製造拠点の国内回帰や設備投資、輸出を促進する政策が推進されやすい。経済安全保障や人手不足対応を促す政策には異論が出づらいからだ。

 だが、財政政策の先行きは読みづらい。自民党内で路線対立が継続しており、誰が首相になるか次第でスタンスが異なるほか、連立候補となる2党の隔たりも大きい。

 これまでの公約などを見る限り、国民民主党は大きな政府を志向する一方、日本維新の会は小さな政府を志向しており真逆と言える。

 今年の骨太方針で財政健全化目標が堅持されたとしても、首相交代や連立政権組み替えを経て見直される可能性がある。防衛増税の実施時期確定なども政治情勢次第になりそうだ。

 一方、日銀の金融政策については、現・植田総裁の体制下で、金融政策運営の正常化を進める方向性だ。首相交代や連立政権の組み替えでも、当面影響を受けないと予想する。

 無論、金融緩和を重視する新首相が誕生すれば、例えば来年以降に予定される審議委員の交代を機にリフレ派が送り込まれる可能性があるものの、現役のリフレ派の審議委員は正常化路線に反対しているわけではない。

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【宮前 耕也(みやまえ こうや)】
SMBC日興証券㈱日本担当シニアエコノミスト
1979年生まれ、大阪府出身。1997年に私立清風南海高等学校を卒業。2002年に東京大学経済学部を卒業後、大阪ガス㈱入社。2006年に財務省へ出向、大臣官房総合政策課調査員として日本経済、財政、エネルギー市場の分析に従事。2008年に野村證券㈱入社、債券アナリスト兼エコノミストとして日本経済、金融政策の分析に従事。2011年にSMBC日興証券㈱入社。エコノミスト、シニア財政アナリスト等を経て現職。
著書に、『アベノミクス2020-人口、財政、エネルギー』(エネルギーフォーラム社、単著)、『図説 日本の財政(平成18年度版)』および『図説 日本の財政(平成19年度版)』(東洋経済新報社、分担執筆)がある。