- 満額回答が相次いでいる今年の春闘。ベースアップは大企業製造業だけでなく、中小企業や非製造業など幅広く広がっている。
- 賃金の伸びも加速しているが、実質ベースの個人消費は3四半期連続で減少しており、景気回復の実感に乏しい。
- その背景にあるのは、経済活動の正常化を上回る物価高。春闘と減税の効果で個人消費は回復するが、中長期的に持続するかは不透明だ。
(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)
【大企業製造業では2年連続で要求強気化、かつ満額回答】
2024年の春闘では、大幅なベースアップが実現しそうだ。
例年、先行して大企業製造業において春闘が妥結する。自動車総連、電機連合、JAM(ものづくり産業労働組合)、基幹労連、全電線の5つの産業別労働組合より構成される金属労協は、大企業製造業54社におけるベースアップの要求・回答状況をとりまとめている。
2023年と2024年の2年連続で、ベースアップは組合側の要求額、そして経営側の回答額ともに、断層を伴って膨らんでいる。
まず、組合側による要求額の平均をみると、2022年に3318円であったが、2023年に8280円、そして2024年には14975円へと急速に膨らんだ。前年比でみれば、2023年は約2.5倍、2024年は約1.8倍だ。
組合側の強気な要求に対して、経営側も前向きに回答している。ベースアップの回答額の平均は、2022年に1994円であったが、2023年に8131円、そして2024年には14891円へ達した。前年比でみれば、2023年は約4.1倍、2024年は約1.8倍だ。
2014年頃からベースアップが復活して以降、組合側の要求額は概ね3000円台、経営側の回答額は概ね1000円台で推移してきた。要求額に対する回答額の比率は、平均して4割程度にとどまった。
だが、2022年に60.1%へ上昇、2023年に一段と上昇して98.2%、そして2024年には99.4%に達した。2年連続でほぼ満額回答となっている。要求額を超える回答額を提示する企業もみられた。
満額回答の背景にある人材獲得競争
組合側がかなり強気なベースアップの要求額を掲げた背景としては、消費者物価の高騰が激しく、かつ長引いたことが挙げられよう。
対して経営側は、コロナ禍の悪影響が和らぐ中、円安進行および価格転嫁進展で収益が回復したため、組合側の要求を受け入れやすくなったとみられる。
また、物価高騰に直面する労働者に配慮して実質賃金上昇率のプラス化を目指す動きや、人手不足に対応して組合側の要求に積極的に応じる動きも広がったとみられる。
ここ2年ほど、大企業では従来よりも早い段階で積極的な回答を提示する動きがみられる。人手不足の深刻化により、人材獲得競争が意識されているということだろう。