(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
4月16日、IMF(国際通貨基金)から公表された春季世界経済見通し(WEO)は、米国経済にけん引される世界経済の脆さが浮き彫りとなった。
今回のサブタイトル「Steady but Slow: Resilience amid Divergence(安定かつ緩慢、まちまちな様相の中、強靭性も)」はインフレ高止まり、欧州および中国の低迷、2つの地域にまたがる戦争の継続といった逆風にもかかわらず、大崩れすることのない世界経済の近況を良く表している。
米国だけであれば「steady(安定)」だったところ、他国も合わせると「slow(緩慢)」というのが世界経済の実情である。
ところで、1年前となる2023年4月のWEOでは地政学リスクを背景に世界の直接投資行動が分断化(fragmentation)しており、それはグローバリゼーションの巻き戻し、さしずめ「スローバリゼーション(slowbalization)」であるとの議論が展開されていた。
1年前の本コラムでも「貧しくなる世界にIMFが警告、本格化する『スローバリゼーション』の時代とは」と題し、詳しく取り扱った経緯がある。
今回、スローバリゼーションというフレーズこそ使われていないものの、最初のBOX欄で「国際貿易に既に影響を与えつつある分断(Fragmentation Is Already Affecting International Trade)」と題した分析が披露されている。
ここでの分析ではまず、世界経済を2つブロックに分けている。
一つは仮想的なブロックAとして「オーストラリア、カナダ、欧州連合、ニュージーランド、アメリカ合衆国からなるブロック」、もう一つは仮想的なブロックBとして、「中国、ロシア、および2022年3月2日の国連総会でロシアに味方した国々からなるブロック」に分けている。
そして次ページの図表①にあるように、それぞれのブロックについて、ロシア・ウクライナ戦争前後に関する貿易変化率を算出し、減少幅を比較している(期間は図表①の注釈を参照)。