「流域治水」を謳いつつ発想はダムや堤防にさらに固執

 だから、治水のあり方は根本的には変わっていない。

 そのあり方とは「基本高水(たかみず)」治水と称されているものだ。想定した量の雨が降った時に基準点を流れる「基本高水」流量を計算し、ダムで貯める量を差し引いて、残りを堤防で囲んで、海まで安全に流すという考え方だ。

 しかし、現実では想定外の豪雨が降る。

 また、堤防もダムも長期にわたって完成しない。

 ダムと堤防に頼る「基本高水」治水は、いわば「安全神話」だ。

 だから、現実の世界では、ダムの治水能力を超える雨が降り、緊急放流をせざるを得なくなり、被害が出る。

 ところが、気候変動を踏まえた提言では、皮肉なことに「基本高水」流量をより大きくして、ダム建設の根拠をより盤石なものにすることになった。計算上、そうなってしまうのだ。

 愛媛県の肱川で「平成30年7月豪雨」後に起きたことはそれだ。緊急放流によって失った5人の命と引き換えで、ダム治水の限界を学んだはずなのに、国土交通省は、肱川の「基本高水」流量を大きくした上で、今、もう一つ新たに山鳥坂ダムをその支流に建設しようとしている。地質調査で、計画地が地すべり地帯の真上にあることがわかってなお、サイトを変更して、2032年に完成させる計画だ(≪5人の命を奪ったダムの「緊急放流」、降水量に見合った運用していればこんな悲劇は…≫で既報)。

「令和2年7月豪雨」で、熊本県の球磨川では、本流が溢れる前に、小さな支流や微妙な高低差のある地形による急流で人は流された。また、河川構造令に適合していない瀬戸石ダムが水位を上げたり、流木がひっかかってダム化した橋梁があったりしたことを住民が指摘しても、国土交通省は耳を傾けない。住民の気づきが、住民の命を救うであろうことに向き合わず、かつて県知事がストップをかけた川辺川ダム計画を復活させてしまった(≪3年前の豪雨球磨川水害の教訓、現行のハザードマップだけでは命を守れない≫≪熊本・球磨川の災害の影に隠される瀬戸石ダムの「構造令」違反問題≫で既報)。