「なんとなく嫌だ」を言語化する

堀場:和平対話をする能力、と言うとわかりやすいかもしれません。

 武装勢力の人にとっては、武力による戦闘は、彼らが知りうる唯一の抵抗手段です。対話をした経験はありません。だから「和平対話をしましょう」と言っても、何を話せばいいのかわからない。そこで私たちは、彼らに他国の類似事例を知ってもらうための勉強会を開催しています。

 世界には、武装勢力が武器を手放し、対話を行い、政治的に解決する方法に切り替えた事例がたくさんあります。それを知ることで、自分たちが和平対話のテーブルについた時に、どのようなことを話せばいいのか、どう話を進めていけばいいのかを、具体的にイメージできるようになります。

 もちろん、能力強化の対象となるのは「トラック1」の人たちだけではありません。トラック1で合意がなされたとしても、民間の人たちまで理解が及んでいなければ、その政策がうまくいくはずもありません。

 そこで、私たちは紛争地帯の市民社会への能力強化トレーニングも行っています。対象は、地元の宗教リーダーや女性のグループ、暴力に加担しがちな若者など、多岐にわたります。

 能力強化トレーニングでは、紛争の構造的な要因を理解するために紛争分析をともに行い、暴力ではない政治的な方法でも問題が解決できるということを学びます。講師を招いて勉強会をしたり、そこでの気付きをディスカッションしたり。

 能力強化トレーニングを通して、彼らの真の要望をくみ上げることも重要です。「こういうことは嫌だ」というふわっとした意見は誰もが持っています。でも、具体的にどこをどう変えてほしいのかということを言語化して説明しようとすると、なかなか難しい。

 私たちは、地元の人たちの「友達」のような存在でいたいと考えています。ただの友達ではなく、「クリティカル・フレンド(批判的思考を使って状況を判断し、時に難しい質問をすることができる支援者)」です。

「クリティカル・フレンド」とは、対等な立場で、互いの成長のために有益な批判や意見をする友人を指します。

 地元の人たちの「なんとなく嫌だ」という意見に対して、ただただ共感するだけでは、前には進めません。「それって具体的にどういうことなの?」「それを実現するにはどうすればいいのかな?」という問いかけをすると、彼らも、自分たちの真の要望は何なのか、現状を打破するには何が必要かを突き詰めて考えるようになっていきます。

 一般の人たちにそういった意識を持ってもらうことは、平和構築では必要不可欠です。

 トラック1で何か政策が決まった時に、「なんとなく嫌だ」「たぶん良い」というような単純な感情ではなく、その政策がどのような意図によるものなのか、自分たちにとって何のメリットがあるのかを考えられるようになります。トラック1で決められた政策に対し、短絡的な暴動が起こる可能性が低くなることが期待されます。

女性の活動家を集めた会合の写真(提供:堀場明子氏)女性の活動家を集めた会合の写真(提供:堀場明子氏)
拡大画像表示
パタニの村で女性たちにヒアリングをしているところ(提供:堀場明子氏)パタニの村で女性たちにヒアリングをしているところ(提供:堀場明子氏)