背中の中心部が変色していたら“悪い”状態
寝つきが悪かったり、眠りが浅くなっている旨の反対のことを、背中の方は語っています。
「10時間でも足りない感じがするくらいだから」
口の言葉と背中のことばがズレている時には、後者を重んじます。
「他の人だって大体こんなもんじゃないの?」
たしかに睡眠の良し悪しというのは、なかなか数値化されづらいものであり――夢の有無や中身といった要素もしばしば絡んでくるような“良し悪し”ではあるのですが
「……この背中の中心・まん中の色が変わっているんですが」
すべての背中にこのような所見があるわけではありません。
「……かゆくないんですか?」
背中の中心部分――解剖学的に正確なことを言えば、三角形状の肩甲骨の下角を結んだ中央付近であり、頚椎七個・胸椎十二個・腰椎五個・仙骨へとつながる背骨の内の胸椎七番の周辺が変色している背中は、弁解の余地なく“悪し”です。
「ああ……そのあたりはたしかにかゆくなったりすることはあるかな? ポッリポッリ」
という擬音でたしか表現されていた言葉の方は、背中のことばに近いですが
「掻いちゃったりするかな? 寝ている時とかにもちょっと」
“ちょっと”どころではないように、背中の方は語りかけてきています。
「……“寝ている時”?」
「そう」
「……寝ている時には意識はないはずですよね?」
問い詰めるようなことはあまり好きではないのですが、ここはきちんと患者さんにも自覚しておいてもらいたい所見です。
「……一度起きてしまっているのか、寝呆けているままなのかはわかりませんが、意識を戻して、背中のここを掻いているわけですよね?」
「まあ、そうなんじゃないの」
やけにここは食い下がってくるじゃないの、先生……という小声の合間にも、背中が大きく昇降しました。
「目だけ閉じている時だって“睡眠”みたいなもんでしょ? はあ」
ため息にしては大きい昇降です……きっと睡眠が浅くなってしまっているから、1日10時間も床に伏していないといけなくなっているのでしょう。