【患者2】背中や胸に「ドンドン」という鼓動

「最近夜中に叩き起こされることがあって……今は私ひとり暮らしのはずなのに」

 という発言は、またべつの患者さんの口からではありますが、よく似ている背中をお持ちになっています。2週間に1回程度ご来院になる患者さんです。

「ドンドンとドアを叩いてくるように……胸なのかな? 背中なのかな……」

 ドンドンとドアを叩いてくるように……

「そのまま朝までずっと……」

 背中を診ること・読むことにおいては、その患部の奥にいったいどの臓器があるのか……といった表層の皮膚を透過するような視線も肝心になってきます。

(写真:PantherMedia/イメージマート)

 “肝心”という熟語をあえて用いさせてもらいましたが、人体においてとりわけ大切・必要・重要であることからこう命名されている“肝”と“心”のうちの後者・心臓の方が、この患部の奥には潜在しています。

「……胸であっても……背中であっても……」

 まさしく“中”央の“心”臓というわけです。

「……その奥にあるのは、心臓ですね」

 この“中心”を守るために――あるいはひた隠そうとするためにかえって威嚇的な形状をとって生えてくるのがツノのようにも思われてきますが、その表面上に何かがある際には、表面上の理解にとどめずに、その奥にも何かがあるというようにとらえておいた方がいいです。

「たしかに日中でもたまに胸が痛くなることがあるのよね……」

 というようにおっしゃっていたはずの心臓まわりの自覚症状がこの患者さんには実際にあり、ともすると人命にそのまま直結しかねない“中心”の問題ですので

「……あまり言いたくないことではあるのですが」

 というようにわたしの方でもここは口の“言葉”に重きをおいて、病院の方でまずは検査を受けてもらった方がいい旨をきちんとお伝えしました。