まだ見えない現代に求められる父親像
榎本:もともと父親は子育てには参画していなかったと思っておられる方が多いかもしれませんが、歴史を遡ると、夫婦ともに農作業などで働く時代の方が長かったのです。専業主婦は、比較的新しい概念だと言えます。
かつての日本には家制度というものがありました。どこに出しても恥ずかしくないような立派な後継ぎを育てる、そしてそれは主に父親の役目とされていた。江戸時代なんかには子育て本がたくさん出回っていて、その主となる読者層は父親でした。そこに、ヨーロッパから専業主婦という概念が明治時代以降入ってきたわけです。
ヨーロッパには独特の社会階層があり、特権階級では日本と違って夫婦で働かず子育てに母親が専念するという形がとられてきた。夫婦で必死に働いていた日本人は、その専業主婦という存在に憧れを抱いたわけです。そうして経済成長とともに専業主婦が広く浸透していくのですが、そこからさらに時代が変わって、再度女性が外で働く社会になっていく。
男性主体で子育てをしていた時代から、戦後復興期は女性に子育てをまかせる流れとなり、さらにもう一度女性も社会への進出を果たしていく。この頃から、父親の心理的不在が取り上げられるようになっていきました。「亭主元気で留守がいい」などと言われ、父親はただ稼いでくる存在となっていった。
でも、そうやって父親がいるにもかかわらず心理的不在が続くと、母親が父性をも担う必要が出てくる。これは、なかなか片親への負担が大きくなるのではないかと思いますね。
そして、最近のイクメン文化の流れから、女性の社会進出チャンスを広げよう、そのために家事育児を分担しようということで、求められる父親像はさらに大きく変化してきているように感じています。
今は激動の時代ですから、実際のところ、現代に求められる父親像はまだハッキリとは定まっていないのではないかと思います。今の時代にふさわしい父親像が明確にならないから、皆子育てに対してモヤモヤしている。そういう中で、数値目標だけを上げて育休を取れなどと言われても、自分がどうふるまえばいいのかわからなくなってしまうわけです。
私は世の中のご両親すべてに、父親、母親としてどんな役割を担うべきか考えてもらうために本書を執筆しました。この本を通して、これからの時代を生き抜く子育てのあり方、自分たちの役割を今一度夫婦で話し合うきっかけができればいいと考えています。(構成:水上 茜)