「登校拒否」「不登校」「ニート」が生まれた背景

榎本:ただ育児休暇を取るだけで、実際子育てには参加していないという状況になる背景には、役割意識の希薄さがあるのではないかと考えています。

 現在のイクメンを推奨する動きの中では、役割意識についてはあまり触れられていません。奥さんが子育てをしているのだから、それを分担してあげなさい。それくらいの認識でしかない。子育てをするからには、父親としてどんな役割を担うことが重要なのか、子育て上の自分の立場を自覚することが大切だと思います。

 親が子育ての中で自分の役割を明確にしていないと、そのしわ寄せは子どもの育ち方に表れてきます。父性によって鍛えられてこなかった場合、ちょっとした衝動がコントロールできないとか、忍耐力や自立する力が弱いまま成長することになるかもしれません。

 父性や母性などというと勘違いされやすいのですが、これは男性や女性に固定されるものではありません。厳しくつき放し鍛え上げる父性機能や暖かく包み込むような母性機能、それらは心理学の中での心の機能であり、性別にかかわらず担うことができるものです。

 社会は思い通りにならないことだらけです。そういった意にそぐわない社会や人生を乗り越えるための力を子どもにつけさせるのが自分の役割だと自覚すれば、おのずと子育てでやることも見えてくるのではないか、と思います。

──父性機能と母性機能について説明されている箇所で、「子どもが赤ちゃんから幼児になったら母親と父親が同じ役割を分担しあうというような育児はしなくてもいい」と書かれています。また、父親がもう一人の母親のような存在になってしまう、イクメン育児の危険性についても触れています。父性・母性の観点で考えた時、父親の担うべき役割はどのようなものなのでしょうか。

榎本:1980年代に、「不登校」という言葉が出てきたのを覚えているでしょうか。その前は「登校拒否」という呼び方をしていました。2000年あたりからは「ニート」という言葉が登場しました。

 社会問題として取り上げられてきたこれらの現象には、いきすぎた母子密着、あるいは父性の欠如が関係していると言えるでしょう。家庭内での結び付きが強すぎて、家庭の外で自立する力の弱い子が増えてきているのです。

 かつての日本には、子どもは社会からの授かりものだという意識がありました。一人前に育てて社会に送り出す、これこそが親の使命だった。でも、今はそれを忘れて、いつまでも自分の所有物のように、まるでペットのように可愛がってしまう。これは本当に由々しき問題です。

 長期的な視野に立ってみれば、むやみやたらと可愛がり続けることが子どもにとってマイナスにしかならないことは想像に難くないと思います。