教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、男子校で広がり始めた性教育とジェンダー教育の現場に迫る連載「ルポ・男子校の性教育」。第5回は海城中学高等学校を訪ねた。取材したのは「恋愛」の授業。科学的な裏付けにユーモアを交え生徒の興味を惹きつける。
かつては厳しい進学校のイメージがもたれていたが、1992年から学校改革を開始し、いまでは「新しい紳士」を標榜するリベラルな学校として人気を博す海城中学高等学校。中3の家庭科で行われる、性とジェンダーに関する授業を見学させてもらった。
(おおたとしまさ:教育ジャーナリスト)
「エプロンをまだ出していないひとは出してください」
担当教員の龍崎翼さんが声をかけると、何人かがビニール袋に入れられた自作のエプロンを教壇に提出した。
「完成してるよね?」
家庭科の提出課題である。
中3の3学期に、5週分の授業を「パートナーシップ」の授業にあてている。1週目は「自分の性を見つめよう」。2週目は「恋愛」。3週目は「性と健康・幸福」。4週目は「産まない性から考える」。5週目「性暴力・性犯罪」は。今回見学させてもらうのは2週目の「恋愛」。
「事前にみなさんに答えてもらったアンケート結果によると……。好きなひとがいるのは23.9%」
男子校ではあるが、4人に1人に好きなひとがいるようだ。教室がざわつく。
「交際相手がいるのは9.3%」
「えーっ!!」
どよめきが起こり、生徒たちはお互いに辺りを見回す。
「いまはいないがいたことがあるのは26.5%で、推しがいるのは44.6%」
どよめきが笑いに変わった。
「前回、SOGI(性的指向と性自認)の話をして、いろんなひとがいるのはわかっているけれど、今日は男女にまつわるいろいろな研究データも紹介しながら授業を進めるので、男女の恋愛について主に扱いますので、ご了承ください」
この日の授業の前提を確認する。
「まずみんな、恋はしたことがあるのかい?」
生徒たちはにやにやしながら「あはは」と乾いた笑いで返す。
「恋がわからない? 恋をしたときの、雷に打たれたみたいな、なんていうのかな、ズキュンみたいなさ。恋っていうのはするもんじゃなくて落ちるものだからね。まだ経験したことのないひとも、きっとこれからそういうこともあるでしょう。そのときに『これか!』と。『これか!』と気づくんだと思います」
龍崎さんが、ちょっと年の離れたいとこのお姉さんのような口調で生徒たちの顔をのぞき込む。