パートナーとの性的にもしあわせな生活を願う
「日本の性教育は予防教育になりがちです。でもそれって、家庭科で食について学ぶときに、肥満や食中毒を防ぐみたいな観点だけになってしまうのと同じですよね。食の満足度ってぜんぜん違う話じゃないですか。性についても、もっとポジティブな側面に触れたい。自分が満足するだけじゃなくて、パートナーとちゃんと話し合って、性的にも充実したしあわせな生活ができるように」
龍崎さんは、大学では家族社会学を学んだ。海城で家庭科を教えるようになって15年が経つ。勤め始めた当時はジェンダーという観点も皆無の時代。エリート学生による性的暴行事件も世を騒がしており、性やジェンダーに関する教育の必要性を強く感じた。
「いまの生徒たちは、ジェンダーバイアスとかジェンダーステレオタイプとかはだいぶなくなってきています。そこには時代の変化を感じます。でも一方で、いままで女性が虐げられてきたこととか、事実としては扱いますけど、差別とか人権とか抽象的な概念から入ると、ダメなんです」
特に、勉強でいっぱいいっぱいになっているような生徒には響きにくいという。ある程度功利的なロジックに落とし込むのも、科学的に説明するのも、生徒たちの状況に合わせた工夫である。
優秀な生徒たちであれば、“SDGs的な正しさ”を頭で理解することは容易である。授業のあとにディスカッションをすれば、“正しい意見”は言える。しかし、まだ多分に自己中心的な段階にある中高生に正論をぶつけても本当の学びには至らないというのが現場の教員の感覚なのだ。