異次元の人に、どう寄り添う?

 Fさんの経験を聞いて思い出したのは、ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロが述べた「縦の旅行・横の旅行」という言葉だ。

 俗に言うリベラルアーツ系、あるいはインテリ系の人々は、実はとても狭い世界の中で暮らしています。東京からパリ、ロサンゼルスなどを飛び回ってあたかも国際的に暮らしていると思いがちですが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていないのです。

 私は最近妻とよく、地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか、と話しています。自分の近くに住んでいる人でさえ、私とはまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことこそ知るべきなのです。

 医師や政治家をはじめ、階層の固定化が著しい。

 年間400万円の予備校費を払うような家庭で育った人が、「お金がかかる」と子どもを産むことに二の足を踏むような人にどう寄り添うのか。

 医師を目指す人にこそ、「縦の旅行」を通じて人間力を鍛える機会が必要なのだと思う。そして、少子化という病魔に襲われた社会にも、「縦の旅行」は有効な処方箋の一つではないかと感じた。